Gatsby-9
このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。
取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。
ぜひ一緒に、英語の原書を読んでみませんか。
(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)
前回まで……「あの夏の出来事」が起こるきっかけになった夫婦――その夫はアメフトで有名になりひと財産築き、今は悠々自適といってもいいような優雅な生活を一見送っているようですが、もしかしたら何か物足りない空虚な思いにさいなまれているかもしれない……そんな思いを埋めようとするかのように次々と訪れたことのない土地を訪れては、今やっているポロ競技の試合を新たな相手に挑んでいるらしい……そして妻はおとなしく付き従っているらしい……というところまでみてきました。
今回は、いよいよ「自分」がその夫妻宅を訪れ再会します。二人の様子は? そして大金持ちの夫が妻と住む豪邸?の様子は……。そのあたりに注目してみていきましょう。
原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。
第9回の範囲は8ページ11行目から8ページ末尾から9行目まで(And so it happened 〜から、enormous leverage — a cruel bodyまで)をみていきます。
まず、今回の考えるヒントを上げます。
- 8ページ末尾から10行目(の最後)-9行目にかけて It was a body capable of enormous leverage — a cruel body. とはどういうことを言っているのか
なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。
主に使用する辞書
『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)
『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)
『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)
それでは今回の範囲をみていきましょう。
① And so it happened that on a warm windy evening I drove over to East Egg to see two old friends whom I scarcely knew at all.
「(三段落前で説明したように)妻のデイジーの方とは親戚の間柄で、夫のトムの方とは大学時代の知り合いという関係で、なおかつ自分が住むことになった西島の家から入江を挟んで対岸に見える東島の白亜の豪邸が並ぶ地区にその夫婦二人が住んでいるらしいという縁もあり(?)、そうした背景が重なって成り行きでこれからいうことになったのだけど……じゃあどういうことになったかというと、(夏なので)晩でも涼しいどころか暑いくらいだけど風は結構吹いていた夕刻に、自分は車を運転して東島まで出向いて行き、二人の昔なじみに会いに行った――ただし、昔なじみといっても、実は自分はその二人のことをほとんどまったくと言っていいほど何も知らなかった」
it は後の that 以下を、つまり on a warm windy evening I drove over to East Egg to see two old friends whom I scarcely I knew at all を指しています。
that は「これから文が続く」ことを示しています。
whom は直前の two old friends を指して言いかえています。
もともと妻と夫の両方と縁があり、前に夫妻宅で過ごしたこともあり、今度は奇遇にも?比較的近所に?住むことになったので、それならば一度食事でも……となったのでしょうか? ただ実際には、「自分」は二人のことを知らないも同然の仲だったというのが本当のところのようです……。前回でもこの夫婦がどうして東部に来たのか、その理由は知らないと言っていました……。でもまあ、とにもかくにも「自分」は招待?に応じて二人の元へ出向いたようです。そして夫妻宅で夕食をともにしたばかりに「あの夏の出来事」が起こってしまった……と三段落前(7ページ末尾から14-13行目あたり)で言っていました……。
② Their house was even more elaborate than I expected, a cheerful red-and-white Georgian Colonial mansion, overlooking the bay.
「トムとデイジーの二人が住む家は、自分がこうではないかと予想していたものよりもずっと凝っていた……明るくて見ていて気持ちのよい印象を受ける、赤色と白色が使われたジョージ王朝風のコロニアル様式の邸宅で、西島と東島を隔てる入江を見下ろす位置に立っていた」
Their は two old friends つまりトムとデイジー夫妻を指します。
Georgian は英国王ジョージ I 世、 II 世、 III世 の時代の様式を表すようです(スペイン無敵艦隊の撃破で有名なエリザベス女王の死去に伴い即位したジェームズ I 世のひ孫に当たるのがジョージ I 世です。ジョージ I 世のお母さんが英国からドイツのハノーバーに嫁ぎ生まれた息子で、英国でアン女王が死去したことに伴い英国王に即位しました。後にアメリカ合衆国となる北米大陸を植民地として支配した時代の英国王です)。Colonial は帝国主義的政策を推し進めていた列強国が占領地に本国の様式を持ち込んで成立していった様式を表すようです。この二つの語が象徴するものは"支配者(側)"といえるかもしれません……。そしてそういう様式の邸宅にトムとデイジーは住んでいた……。
the bay は7ページ末尾から15行目に出てくる the courtesy bay と同じものを指します。
前回みた内容から、トムが同年代の自分には考えられないような大金持ちだということはもうわかっていたはずですから、きっとすごい家に住んでいるのだろうな、とは思っていたのでしょうけれど、実際に行ってみると自分の予想をはるかに超えていた…ということのようです。やっぱり豪邸らしい?……これまた、逆方向にはなりますが、入江が見えるようで……。まるで入江を挟んで西島の家々と東島の家々が向き合っているかのようではないでしょうか?……
③ The lawn started at the beach and ran toward the front door for a quarter of a mile, jumping over sun-dials and brick walks and burning gardens — finally when it reached the house drifting up the side in bright vines as though from the momentum of its run.
「芝生の際は砂浜(?)の浜辺にあったようで、そこからずーっと邸宅の正面玄関の方に向かって芝生が続いていたのだけれど、その距離はなんと四分の一マイル(約四百メートル)もあったと……ただ、そこまでいく途中には日時計があったり、レンガを並べて作られた歩道があったり、畑にするために草木が焼き払われた一画があちこちに作ってあったりしたのだけれど、そうしたところだけは避けるような形で辺り一面が芝生で覆われていた……そしてその芝生がようやく邸宅の建物の際までたどり着くと、今度はそこから壁伝いに緑の色が濃く鮮やかなブドウのつるが上の方へと蛇行しながら伸びていっていた……その様はまるで芝生が邸宅建物の際まで迫りくる勢いのままにぐんぐん上昇気流に乗っているかのようだった」
it は冒頭の The lawn を指しているのではないでしょうか? そして何が drifting up しているのか――The lawn が in bright vines という形に変わって、つまり芝生の緑が壁際の地面を境に今度はブドウのつるの緑に形を変えて上に向かって伸びているのではないでしょうか? 最後の its も The lawn を指しているのではないでしょうか? 浜辺からずーっと邸宅建物まで続いている芝生の広がる様子になにか勢いが感じられるようです……。
どうやらまず邸宅建物正面玄関にたどり着くまでに相当距離があるようです……その間ほぼ一面芝生が敷き詰められている…緑の絨毯?さながら緑一色に染まっているかのよう?……ようやく建物に近づいてみると、びっしりと隙間なく辺りを覆っている緑は建物の際まで来たところで切れることなく、今度はブドウのつるに姿を変えて壁伝いに上へと伸び広がっている……そんな様子でしょうか? ②で建物は赤色と白色と言っていたので、緑にそびえる赤と白の花のようにも見えたかもしれません……。
④ The front was broken by a line of French windows, glowing now with reflected gold and wide open to the warm windy afternoon, and Tom Buchanan in riding clothes was standing with his legs apart on the front porch.
「建物の正面側(の壁)は間々に一列に並んだフランス窓があった……自分が到着したその夕刻のタイミングでそれらの窓が光り輝いていた……夕陽の光が反射して金色になって……なおかつそれらの窓は大きく開かれていた……屋外はまもなく日が暮れようとする夕刻でもやはり涼しくはなく暑いくらいだったけど風が結構吹いていた……そういう情景の中で、トム・ブキャナンが現れた……身に着けていたのは乗馬服だった……両足が離れた状態で…つまり両足を広げた状態で立っていた……いた場所は玄関先のポーチだった」
his は Tom Buchanan を指しています。
French windows は窓というより屋外に出入りできる観音開きの扉のようです。
邸宅建物の正面玄関に近づくと一列に並んだフランス窓(扉)が目についたようです……どうしてでしょうか?……きっと夕陽を反射してきらきらと輝いていたからではないでしょうか?……その扉は開けてあった……どうしてでしょうか?……屋外も暑かったけど風はあったので、その風を屋内に入れていたのかも?しれません……さあ、いよいよこの邸宅の主の登場です……どうやら玄関先のポーチに仁王立ち?で「自分」を出迎えた?らしく思われませんか?……
⑤ He had changed since his New Haven years.
「トムは変わってしまっていた…トムがイェール大学を卒業した後に」
He も his も前文に出てきた Tom Buchanan を指します。
第7回の最後で「自分」は大学にいたときにトムを知ったと言っていたので、要は絶頂期のトムも、そして大学卒業後いまいち冴えないトムも、(実際に顔を合わせた回数は少ないけど)どちらも知っているので、こういう説明の仕方をしているのかもしれません……。
⑥ Now he was a sturdy straw-haired man of thirty with a rather hard mouth and a supercilious manner.
「今自分の目の前にいるトムの姿は、がっちりとした体格で、髪は麦わら色で、年齢は三十歳(の男)で、口元をしっかりと固く結んで(硬い表情で)、この俺様こそがこの世で一番偉いのだと言わんばかりの人を上から見下した傲慢な態度だった」
he は④に出てきた Tom Buchanan を指します。
大学にいたときのトムがどんな様子だったのかわかりませんが、少なくとも今は、⑥で言っているとおりのようです……。過去最強といってもいいくらいのすごいスポーツ選手だったくらいですから、現役を退いた後でもきっと体格が良いのは想像がつきます……。髪は…要は金髪だったのではないでしょうか?…… 年齢は「自分」と同じくらいのようです……。口元の様子からすると…気難しそうな印象?でしょうか……。そして最後の supercilious がすごいですねえ……でも、自分より強い選手がいなかった?くらいの人なら、こんなふうに偉そうになったりするのかもしれません……。
⑦ Two shining arrogant eyes had established dominance over his face and gave him the appearance of always leaning aggressively forward.
「二つの光り輝く傲慢不遜な目が、トムの顔全体を支配する状態を固めていた……なおかつその目がトムの外観をいつも前のめりな今にもつかみかからんばかりの勢いで(相手に)向かっているようなもの(印象)にしていた。」
his と him は④に出てきた Tom Buchanan を指します。
ギラギラした目だったのでしょうか?……その目の印象が顔全体の印象を決めていたようです……それだけ強烈なものがあった?……そしてその目のせいで、高圧的?だったり有無を言わせぬ強引な?印象だったり与えていたのでしょうか……。なんだか、少なくとも人に好かれる感じではないような……。
⑧ Not even the effeminate swank of his riding clothes could hide the enormous power of that body — he seemed to fill those glistening boots until he strained the top lacing, and you could see a great pack of muscle shifting when his shoulder moved under his thin coat.
「トムが身につけていた乗馬服は優雅で洒落たものだったけれど、上辺をそのように優雅で洒落た服を着て(ごまかして)いても、どうやっても隠せないものがあったのだけど、それは(トムの)その頑丈な体にみなぎるものすごい量の活力だった……トムはあのテカテカと光る(乗馬用の?)ブーツを(自分の太い足で)満たしているように思われた……そしてブーツの一番上のひもをきつく縛っていた……そのようにものすごい量の活力がみなぎっていて、ブーツは自分の太い足ではち切れんばかりに膨らんでいるのをブーツの一番上でギューッと縛り上げているのに加えて、トムの姿を目にすれば誰でもわかったはずだけど、ごっそりとついた筋肉がブルンブルンと動いていた……トムの肩が動いたときに……それもトムが身に着けている生地の薄い上着の下で動いたときに……」
his、he、その次のhe、そして his と最後の his はすべて、④に出てきた Tom Buchanan を指します。
that は「トムのあの〜」というニュアンスで使われているようです。
those は、乗馬用のブーツはどれもそういう類いのもの…というニュアンスで使われているのではないでしょうか?
you はこの物語を今読んでいる読者だって、もしその姿を目にしたらきっとそうだと思う…という気持ちを込めて使われているのではないでしょうか?
⑦では顔の印象……そして今度はどんな体つきなのかを説明しているようです……。優雅な洒落た乗馬服と、トムの体にみなぎるエネルギーなのかバイタリティなのか生命力なのか、とにかくその両者がどうも釣り合っていない、不似合いだと言っているのではないでしょうか? 服もそうだけど、乗馬用のブーツもまあ無理やりギューギュー押し込んで履いたんじゃないかというくらい、もしかしたら不格好?にすら見えていた?のかもしれません……服もブーツも分不相応?というか……そこへさらに輪をかけてきわめつけが、なんと上着の上からでもわかるほど肩まわりの?ムキムキすぎる?筋肉が動くだなんて……さすがは最強のアメフト選手だっただけのことはあるということなのでしょうか?
⑨ It was a body capable of enormous leverage — a cruel body.
「前文で説明したようなトムのあの頑強な体は、途方もなく大きな負荷にも対応できる体だった――苦しい目に遭わされても平気、いやむしろその苦しみを快感に変えてしまえるほどの体だった」
今回の考えるヒントに上げた箇所が出てきました。
It は⑧で出てきた that body を指すと同時に、⑧で説明したような状態や有り様のトムの体を指すとも解釈できるのではないでしょうか?
leverage はテコの原理で力を加えることを表します。ということは、かける力が小さくても、力をかけた対象にかかる負荷自体はとてつもなく大きなものになります。それほど大きな負荷がかかっても全然へっちゃら、まったくこたえない……トムの体はそれくらい頑強だと言っているのではないでしょうか?
cruel は普通、他人を苦しめて喜ぶ有り様を表すようですが、ここではトムの体が何かあるいは誰かに苦しい目に遭わされてもその苦しみをトム自身またはトムの体自体が喜んだり快感に感じたりする…というようなニュアンスで使われているのではないでしょうか?
すごい体ですねえ……。どれほど大きな負荷にも耐えられるし、どんな辛い目に遭わされようとも何ともなくて平気……。無敵?……だから最強?……きっと体も大きいくて重いのじゃないかと思うのですけど、そんな体でポロ競技の小馬に乗って大丈夫なんでしょうか?……馬が可哀想だったりしないのでしょうか?……その体でどうしてポロ競技を選んだのか、なんだか不思議な気がしますが……トムが自らに似合わないもの、ふさわしくないもの、もしかしたら分不相応なもの?を選んでいると揶揄しているような?意味合いも含まれていたり?するのでしょうか……。
おつかれさまでした。今回は③の drifting up や⑨の leverage や cruel など、何を言っているのかよくわからない箇所がいろいろあったと思います。
特にこういう何かを描写する文章ほど難しいなあ……とうんざりするような気持ちになることが多いように思われます。
ただ、作者はそうしたところにこそ、いろんな思いを込めているかもしれない……ので、ぜひ一緒に読んでいただけたらと思います。
今回の考えるヒントに上げたお題 「8ページ末尾から10行目(の最後)-9行目にかけて It was a body capable of enormous leverage — a cruel body. とはどういうことを言っているのか」 ですが……⑨で説明したとおりです。
それにしてもトムというのは……正直お近づきになりたくはないような……そう思いませんか? 無敵の最強の体を誇り、まだ若いのに半端ない大金持ちで、性格は最悪?かもしれない……そしてそのトム(とデイジー)に会ったことがきっかけで、「あの夏の出来事」が起きる……。やっぱり最悪?なんじゃないでしょうか?……。ただ、夫妻の邸宅はなんだか洒落ているような……辺り一面ほぼ緑で埋め尽くされた中に、赤色と白色の邸宅がポンと軽やかに?置かれているような……でもこの邸宅も、なんだかトムのイメージと合わないような……。
そのあたりのことも頭に置きながら、また次回から続きをみていきましょう。
次回はいよいよ!やっと!セリフが出てきます。ここまで長かった……。やっと物語が動く……。
「自分」はトムとデイジー夫妻と夕食をともにし、どんな時間を過ごすのでしょうか?
それにデイジーがどんな人物なのかも、追々わかってくるのではないでしょうか……。
ぜひまた一緒に読んでみてください。
第10回の範囲は8ページ末尾から8行目から9ページ11行目まで(His speaking voice, 〜から"We’ll go inside."まで)をみていきます。
次回の考えるヒントは……
- 8ページ末尾から2行目 We were in the same senior society, とはどういうことを言っているのか
そういえばどうやら玄関先に出迎えに出てきていたのはトムだけのようでした……(デイジーは家の中?)……次回はその玄関先でいよいよ再会を果たした「自分」とトムが言葉を交わします。
ぜひまた一緒にみていってください。
最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。
・どうして作者はその言葉を使用したのか
・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか
・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか
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なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。