Gatsby-5
このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。
取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。
ぜひ一緒に、英語の原書を読んでみませんか。
(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)
前回までを整理すると……辛抱強くあろうと涙ぐましい努力を続けてきたらしい「自分」ですが、その努力を放棄してしまうような事件?が何かあったようです。どうもその件にはギャッツビーという男が関係しているようです。その男のために、「自分」の価値観や生き方までもしかしたら変わってしまった?……いったい何があったのか、きっとその話をこれから語ってくれるはずですが、その前に、「自分」の生い立ちなどをまずは説明しています。その続きをみていきましょう。
原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。
第5回の範囲は、6ページ最初から6ページ第5段落まで(The practical thing 〜からagain with the summer.まで)をみていきます。
まず、今回の考えるヒントを上げます。
- 第3段落に出てくる West Egg village は何を表しているのか
なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。
主に使用する辞書
『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)
『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)
『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)
では、今回の範囲をみていきましょう。
① The practical thing was to find rooms in the city, but it was a warm season, and I had just left a country of wide lawns and friendly trees, so when a young man at the office suggested that we take a house together in a commuting town, it sounded like a great idea.
「現実に片付けるべき問題は、自分が出てきた米国東部の都会で自分が住む部屋を探すことだったのだけど、(春に出てきていたから)暖かい季節だったし、それについこの間離れたばかりの故郷はどこに行っても広大な土地に草がぼうぼうに生えていて心地よい木々が(たくさん)ある田舎だったから、職場で一緒になった青年があることを提案したとき――その提案というのは通勤圏内の(郊外の)町で一緒に一軒家を借りて住まないかというもので――素晴らしい考えに思えた」
the city は具体的にどこなのか、ここではまだわかりません。
but は直前の部分に the city とあるので当然都会の街うちに部屋を借りると(読者が)思うだろうけど、実際にはそうではなくて、a commuting town 通勤圏内にある、都会というよりたぶん「自分」の故郷の田舎に近い感じの町に一軒家を借りて住む提案を受けて、それに乗ったという話の流れを表しています。
it は「状況」を表しています。
that は suggested の内容を説明する文が続くことを示しています。
we は I と a young man の二人を指します。
最後に出てくる it は直前の that we take a house together in a commuting town (suggested 提案の内容)を指しています。
前回の話は、とにもかくにも1922年の春に米国東部に出てきた、というところで終わっていました。さあ新天地で新生活を始めるとなったらまずは住む所が必要ではないでしょうか? もしかしたら最初は都会の街の中に部屋を借りて住むことも考えたのかもしれませんが、実際には田舎から出てきてすぐに都会モードになれたわけではなかったのでしょうか?……職場で知り合ったおそらく年齢の近い若者に一緒に住もうと、しかも「自分」の田舎に近い環境の所はどうだ、と声をかけられて、そりゃあ良い!とホイホイと乗ったのではないでしょうか?
② He found the house, a weather-beaten cardboard bungalow at eighty a month, but at the last minute the firm ordered him to Washington, and I went out to the country alone.
「自分を誘った青年が借りる家を見つけてきた…その家は風雨にさらされて傷んだぼろぼろの平屋建ての家で、家賃が月額80ドルだった……ところが誘った青年と一緒に住むはずだったのに(その予想に反して)、いよいよ一緒に住もうという段階になって、会社がその青年に異動を命じた…異動先はワシントンだった……それで(仕方なく)自分は一人きりでその家のある郊外の町に移って行った」
He は①に出てきたa young man at the office を指します。
cardboard は路上生活者が使うことの多いダンボールを指すようですが、ここではおそらく「自分(たち)」の借りた家を卑下?するようなニュアンスで使われているのではないでしょうか?
eighty は、dollar と書かれていませんが、借りた家の話をしていて at は「金額」(月額賃料)を指すので、dollar が省略されていると推測されます。
him は He と同様①に出てきた a young man at the office を指します。
職場の異動命令で結局「自分」一人が、本当は一緒に住むはずだった若者が見つけてきた家に住むことになったようです。若者の異動先がワシントンということは、「自分」が出てきた都会はワシントンではないようです……作者は「自分」が具体的にどの都市に出てきたのか、なかなか教えてくれませんねえ……。
③ I had a dog — at least I had him for a few days until he ran away — and an old Dodge and a Finnish woman, who made my bed and cooked breakfast and muttered Finnish wisdom to herself over the electric stove.
「自分は犬を一匹飼った、といっても実際に飼ったといえる期間はわずか数日間だった――というのもその犬が逃げ出してしまったから……それから使い古されたダッジという車種の車を一台手に入れ、フィンランド人の女性を雇った……その女性に自分のベッドを整えてもらい、朝食を作ってもらった……その女性はフィンランドの格言をぶつぶつと自らにつぶやいていた…電気コンロに向かって料理をしながら」
him は a dog を指しています。次の he も a dog を指しています。
who は直前の a Finnish woman を指しています。herself も a Finnish woman を指しています。
②で「自分」が借りて住むことになった家は「ぼろぼろ」だとありましたが、車も持つには持ったようですがこちらも「使い古された」もののようです。恵まれた家庭の子息でエリートの大卒だけど、新社会人に分相応な家と車を選んだようです……。お手伝いさんも雇ったというのは、現代の日本人の感覚からすると贅沢にも思えますが、「自分」の感覚的にはごくごく限られた世話だけを頼んだにすぎない……そんなたいそうなものではない…という気持ちかもしれません。
④ It was lonely for a day or so until one morning some man, more recently arrived than I, stopped me on the road.
「一人きりの状態が一日とかそれぐらいの間あったのだけど、あるときが来てその状態が終わった……それはある朝のことで、誰かはわからないけど一人の男が――この男が自分の今いる所に来たのはつい最近で自分よりも遅かったのだけど――その男が自分を(自分が今いる所の)道路にいたときに呼び止めた」
It は「状況や状態」を表しています。
one は漠然と「あるとき」を指しています。
some man がどうしたのか一番言いたいことは stopped me on the road だったので、","(コンマ)で区切って more recently arrived than I という情報を間に入れる形で付け加えているようです。
「自分」が郊外の町に借りた家に来てすぐは一人の時間があったと…でも、家の近くでも歩いていたのでしょうか?……道路で呼び止められたようです…で、呼び止めた人はどうやら「自分」よりも後からその町に来た人のようです。どうしてわかったのでしょうか?
⑤ “How do you get to West Egg village?" he asked helplessly.
「『道を教えてもらいたいのだが、行きたいのはウェストエッグの集落だ』その男が尋ねた――困っている様子だった」
How do you get to で you が使われているのは、「道を教えて下さい」とお願いする気持ちを表しています。
he は④に出てきた some man を指しています。
さて、今回の考えるヒントに上げた West Egg village ですが……実は、第6回の範囲をみなければわかりません。6ページの末尾から2行目〜7ページ7-8行目あたりにヒントがあります。道を教えてもらいたいと言っているので、地名とか場所の名だろうなと推測がつくと思います。また、「自分」の借りて住む家が具体的にどんなところにあるのかは、第7回の範囲(7ページ11-12行目あたり)に出てきます。そうした情報を踏まえないと village のニュアンスもよくわからないと思います。ただ、おそらく、作者は意図的にわからないようにしていると思います。読者にどんなところだろうと興味を持たせたいように思えます。
West Egg をそのままみると「西の卵」になります……なんのこっちゃ?…と思いますよね……どうしてそんな地名なんだろう?…と不思議に思わせたいのではないでしょうか? こういう場合は、そういう名前の地域に「自分」は家を借りて住んだのかな?くらいに思っておけばよいのではないでしょうか?
village 自体は町というほどではないけど結構人の住む家が集まっている地域を指すようです。
「自分」は道を尋ねられたのですね……West Egg という地名らしきものが出てきました……どんなところなのでしょうか?
⑥ I told him. And as I walked on I was lonely no longer.
「自分はその男に道を教えてやった。その上で、(いっしょに)(そのまま)歩いていくことを続けたので、自分は一人の状態ではなくなった」
told は「情報を言葉にして伝えてやる」というニュアンスです。
him は④の some man を指しています。
見ず知らずで名前も知らなかったけど、「自分」に一時でも連れができたようです。
⑦ I was a guide, a pathfinder, an original settler.
「自分が案内人で先導者で今いる所に最初に住み始めた人だった」
④に出てきたsome man との関係では、道を聞かれて教えてやり、連れて行ってやったようなので、このように言っているのではないでしょうか?
こうして道に困った人を案内できるくらいですから、「自分」は新天地の新しい住まいにもその町にもすぐに馴染めたようです……。
⑧ He had casually conferred on me the freedom of the neighborhood.
「その男は成り行きで自分に与えてくれたものがある…それは自由だ…(自分の新しい住まいの)近所に関する…」
He は④に出てきた some man を指します。
「自分」は道を訊かれたことがきっかけで、新しい土地に来たばかりの新入りという意識でいたものが(どこか遠慮したような気持ちでもあったのでしょうか?)、すっかりその町の住人になりきって"自分の町"を堂々と遠慮なく歩けるようになったのかもしれません……。
⑨ And so with the sunshine and the great bursts of leaves growing on the trees, just as things grow in fast movies, I had that familiar conviction that life was beginning over again with the summer.
「(そうやってすっかり新しい町にも馴染んだ自分は)今度は太陽の光と大量に一気に葉がどんどん木々に生い茂る様を見て――その様子はちょうどいろんなものが成長する有り様を通常よりも速いスピードで流していく映像で再現しているような感じで――自分は例の自分がこれまでにも(何度も)経験してきた間違いなくそうだと自身を持って断言できる感覚を持った……それは生命が新しく生まれ変わるサイクルがまた(今年も)始まる…夏がやって来るとともに…という感覚だった」
so は⑧のように新しい町に慣れたその次には…というニュアンスで使われているようです。
with は何かきっかけになったものを表しています。
最初の that は「例の」「あの」と読者にも覚えがないだろうかと問いかける気持ちがこもっているようです。
次の that は that familiar conviction が具体的にどのようなものなのか、その説明が続くことを示しています。
前回最後に「自分は春に米国東部にやってきた」と言っていました。新しい町に住み始めて数日も経たないうちにすっかり馴染んだようですが、陽の光やどんどん緑が濃くなる様を目にして、ああ夏がくるなあ……また新しい生命が生まれる……そんなことを思ったようです……。新しい仕事に挑戦?しようと新天地に乗り出して、きっと希望に満ちあふれているのでしょう……。「自分」も新たな人生が始まる…とそうした目に入る光景に自分を重ね合わせていたのかもしれません……。
おつかれさまでした。今回もそれなりに最初の数回よりは楽に読めたのではないでしょうか?
「自分」が新天地にやって来て住むことになった地域にじきに慣れ、前途洋々たる希望にあふれているらしい…というところまでみてきました。
今回の考えるヒントのお題「第3段落に出てくる West Egg village は何を表しているのか」ですが……
⑤で説明したとおり、とりあえず、ここだけからではわからないも同然ですが、きっと作者の意図は読者にわざとわからせたくないのではないかと……ですから読者としては、そういう地名のところでもあるのかな、いったいどんなところなのだろう、と思っておけばよいのではないでしょうか?
ただ、種明かしになってしまいますが、この West Egg は厳密には地名ではないのではないかと……推測されます。いわば作者が勝手につけたあだ名のような呼称ではないかと……。その辺りは次回の第6回でみていきます。
次回はいよいよ「自分」の新生活が始まります。その様子と、そして West Egg の由来――どうしてそう呼ぶのか――が明かされます。
ぜひ続きをまた一緒にみていってください。
第6回の範囲は、6ページ第6段落から7ページ11行目まで(There was so much 〜からcontrast between them.まで)をみていきます。
次回の考えるヒントは……
- 6ページ第6段落10行目最後-12行目最初 and become again that most limited of all specialists, the “well-rounded man" とはどういうことを表しているのか
次回はもしかしたら今回より少し読みにくいかも…… でも、ぜひ一緒に読んでみてください。
最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。
・どうして作者はその言葉を使用したのか
・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか
・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか
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なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。