Gatsby-3

このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。

取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。

ぜひ一緒に、英語の原書を読んでみませんか。

(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)

 

第2回では、父親から受けた忠告を守ったために「辛抱強く」なれた反面、不本意で不愉快な思いも多くした苦悩や葛藤を味わったという告白を通じて、それほど辛抱強い自分でも「我慢にも限度がある」という経験をしたと訴えていました。

それではその「我慢にも限度がある」という経験とは、どのようなものなのか? ――そこに注目しながら続きをみていきましょう。

 

原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。

第3回の範囲は、4ページ第4段落第2文から5ページ17行目まで(Conduct may be founded 〜から、short-winded elations of men.まで)をみていきます。

まず、今回の考えるヒントを上げます。

  • 今回の範囲の最後に出てくる what foul dust floated in the wake of his dreams that temporarily closed out my interest in the abortive sorrows and short-winded elations of men. とはどういうことを言っているのか

 

なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。

主に使用する辞書

『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)

『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)

『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)

 

それでは第2回の続きからみていきましょう。

① Conduct may be founded on the hard rock or the wet marshes, but after a certain point I don’t care what it’s founded on.

(前半部分)「人の行いや振る舞いには何か土台があるのだろうか……硬い岩のようなしっかりとした基盤のようなものだろうか、それともずぶずぶでどろどろの柔らかい沼地のような…でもそれじゃそもそも土台にすらならないような…だとしたら土台はあるのだろうか……」

Conductは(前回の最後の)話の流れから、「辛抱強いこと」を指すのではないでしょうか。

前回の最後に、我慢にも限度があると思わずにいられないことがあったようだとみてきました。それでも「自分」はやはり「父親」の忠告に従いたいようです……なんとかどんなときにも辛抱強く振る舞えるようになりたいと思っているのでしょうか? 何かそのための土台があればいいのだろうか…と模索しているようです。

(後半部分)「そうやっていろいろ模索したんだけど結局意図したとおりにはいかなくて、はっきりとしないのだけどある時点を境に、辛抱強く振る舞うための土台が何なのかを気にかけていない」

but は直前の内容を打ち消す働きをします。辛抱強くあるためにいろんな模索をしたのであれば普通はその結果どんな良い方法や対策などを見つけたのだろうかと読者は期待して読み進めるはずですが、その期待どおりには事が運ばないことを表しています。

what は「具体的に何かわからないもの」を指します。本来は文末の founded on の後にあるはずのものが前に出てきています。「気にかける動作」の対象をcare の直後に持ってくる必要があったためです。

it は Conduct を指します。

辛抱強くあろうと、いろいろ努力したようですね……でも結局、どんなきっかけがあったのかわかりませんが、意識して辛抱強くあろうとこだわるのをもしかしたらやめたのでしょうか?

② When I came back from the East last autumn I felt that I wanted the world to be in uniform and at a sort of moral attention forever;

「この前の秋に米国東部から(今いる場所に)戻ってきた時、自分が感じたことがあったんだけど……それは世間が同じものに統一されている状態であってほしいこと、なおかつ(世間が)倫理道徳規範に関わるたぐいに心をくだく状態であってほしいこと、しかもそれがこれから先ずっとどの時期や時点でもそうあってほしいと自分は望んでいるということだった」

the East は、ここまでの内容からはわかりませんが、実は「米国東部」を指します。次の第4回の範囲に"Civil War"とか"New Haven"とか出てくるあたりからそのように推測されます。ただ、この作品は米国で出版されたものだとすでに説明していますし、作者が米国人だと(もし)知っていれば米国の話かなと推測するのが普通かもしれません……。いずれにしろ話が進むにつれて(第5回の範囲では"Washington"が出てきますし)、ああ米国の話なんだなとわかっていきます。

a sort of の a は漠然としたニュアンスを表しています。sortは「もしグループ分けしたらだいたいそんなグループに分類されそう」なニュアンスを表しています。of はじゃあ具体的にどんなグループなのかを説明しています。

新しい情報が出てきました…「自分」はこの前の秋まで米国東部にいたそうで、今いる場所はどうやら米国東部に行く前にいたところらしい…故郷?を一度は離れてまた戻ってきた?のでしょうか……そして世間について何か感じたことがあったようです……自分が望むのは、世間の人たちみんなが同じようなあり方であってほしいと、しかもそのあり方は特に倫理道徳規範に心を配るものであってほしいと、それもいついかなるときでも変わることなくそうあってほしいと、願っているようです……。
要は世間の人みんなが絶対に人の道に外れることなく倫理道徳規範を守って生活してほしいと、「自分」は思ったようです……いったい何があったのでしょうか?

 

③ I wanted no more riotous excursions with privileged glimpse into the human heart.

「自分がもうこれ以上いらないと思っているものがあるのだけど、それは図々しく厚かましくも普通の人ならやらない羽目を外した行いで、その具体的な方法は特別な権利を持った人だけができることで、(他の)人の心の中に踏み込んでその中をのぞき見ることだ」

more は「これまでのものに加えてさらに同じような種類の他のものが加わること」を表します。no more で「これ以上いらない」ことを表しています。

riotous は「図々しくて厚かましい様子」を表しています。excursions は「普通の人ならやらない羽目を外した行い」を表します。

privileged は「誰でもできるわけではなく、いわば特別な権利を持った人だけにできること」を表します。

前回、「自分」は知りたくもないのに秘密を打ち明けられるようになって迷惑した、という話がありました。秘密というのは普通、人が心の奥底に秘めておくもので、その秘密を知らされるというのは、その人の心の中をのぞき見るようなものかもしれません……そして人は誰にでも秘密を打ち明けるわけではなく、いわば心を許した人にだけ明かすわけですが…… どうやら「自分」はそういう行為を「図々しくて厚かましく普通の人ならやらない羽目を外した行い」と考えているようです……そしてもう、そんなことはしたくない、と……。
もう他人の秘密なんてうんざりだ、知りたくもない、と言っているようです……。

 

④ Only Gatsby, the man who gives his name to this book, was exempt from my reaction — Gatsby, who represented everything for which I have an unaffected scorn.

(前半部分)「ギャッツビーに限定されるのだけど……ギャッツビーというのはその名がこの物語のタイトルになっている男で、自分の(いつもの)対応や姿勢の対象範囲から外れていた」

Gatsby「ギャッツビー」が出てきました! 続く the man は誰を指しているのでしょうか? 直前の Gatsby です。Gatsby というのは特定の男性の名前を表すことがここでわかりました。

who は直前の the man を指して言いかえています。his は誰を指すのでしょうか? the man つまり Gatsby です。

my reaction は「自分の対応、つまり相手に対してどのような姿勢で応じるのか」を表しています。具体的にはどのような対応や姿勢なのでしょうか? 第2回から見てきたように、「自分」はとにかく人を批判しないように、黙って辛抱して受け入れるように努めていました。それが「自分」のいつも心がけてきた対応や姿勢だったのではないでしょうか?

ギャッツビーという一人の男性の名前がそのまま、この作品のタイトルになっているということです。そして、そのギャッツビーという人は、自分がいつも心がけてきた「批判せず黙って辛抱して受け入れる」対象範囲から外れていた……どういうことでしょうか?

(後半部分)「ギャッツビーについてもう少し詳しい説明を加えると、この男は自分が心からさげすみバカにして忌み嫌い絶対に受け入れる気がしない強い感情の対象となる何もかもに当てはまっていた」

“–“(ダッシュ)は、その前の部分に関わる説明が続くことを表しています。

who は直前の Gatsby を指して言いかえています。represented は「何かに当てはまること」を表します。

which は everything を指して言いかえています。for は本来、文末の scornの後にあるべきものが、 which が everything を指すため、everything に引っ張られて前に出てきました。

unaffected は「自分が心からそう思っている気持ち」を表します。

ずいぶん嫌がっているようです……自分が軽蔑して反感しか感じないようなもの(性格とか癖とか特徴とか?)を全部集めて一つにまとめたらギャッツビーができあがりそう?……そこまで嫌な人だったら、批判せず黙って辛抱して受け入れることができたでしょうか……さっきの「自分のいつもの対応や姿勢の対象範囲から外れている」というのは、要は辛抱して受け入れることができなかったと……そう言っているのではないでしょうか?

⑤ If personality is an unbroken series of successful gestures, then there was something gorgeous about him, some heightened sensitivity to the promises of life, as if he were related to one of those intricate machines that register earthquakes ten thousand miles away.

「If 〜」と「then 〜」と「as 〜」と3つの部分に分けてみていきます。

(最初の部分)「仮に、性格や人柄などの人の個性が、途切れることなくひと続きに連なったひとまとまりになっている何かでできていて、その何かは意図した通りの効果を上げられた状態にあって、内面の意図や思いを他人の目に見えるように外面に表した行為であるのだとしたら」

unbroken は「途切れることのない状態(数珠つなぎのような状態)」を表しています。

人柄ってどういうものなんだろう?……もしかしたら、内面の意図や思いを人に気づいてもらえるように外面に表す行為が連続して表れるのを見たときに受ける印象?みたいなものでわかるのかな?……しかもそうした行為がちゃんと内面で意図したとおりの効果を上げていないと、内面がそのまま外面に表れていることにならないから……そうしたら内面にある本当の人柄が表れていることにならないよね……なんてことを「自分」は思い巡らせてでもいるようです……。

(中間の部分)「(個性とか人柄とかってその人の外面に次々と表れてくる振る舞いとか行いとかに出るのだとしたら、)そうであるならば ギャッツビーにまつわるものには漠然としてるけど華やかで派手なものがあるよね……それに加えて、これまた漠然としてるけど何かを感じ取る力の水準が(他の人より)高いよね……何を感じ取る力かというと、(仕事でもプライベートでも)いわゆる人生に関わるもので成功につながりそうな可能性や見込みを感じ取る力……」

then は「直前の仮定に基づけばどのようなことがいえるのか」を表しています。

something は「漠然としたもの」を表します。him は誰を指しているのでしょうか? ④で名前の挙げられた Gatsby です。

“,"(コンマ)で区切ってある部分は、引き続いて同様に「何が」存在する状態なのかを説明しています。

some は「漠然としたものである」というニュアンスを加えています。

「自分」がギャツビーの外面に表れている振る舞いや行いを見ていて、ギャッツビーの人柄について受けた印象が、なんとなく華やかで派手で、そしてなんとなく他の人よりも社会の中で人生の成功といえるような可能性や見込みがあるものをかぎつける力にすぐれているように思えた……と言っているようです。ギャッツビーって、野心家?な一面でもあるのでしょうか?

(最後の部分)「ギャッツビーが成功の可能性や見込みをかぎつける力をたとえていうならば、ギャッツビーが目に見えない糸か何かでつながっているものがあって、それは、ほらあの複雑で精巧な造りのいろんな部品が複雑に組み合わさって動く機械で、ものすごく遠く離れた所で発生した地震でも(逃さず感知して)記録する装置につながってるような感じだ」

as if は何かたとえをあげるときに使われます。ここでは何の例えを上げているのでしょうか? 直前でギャッツビーが人生で成功につながりそうな可能性や見込みをかぎつける力に秀でている話が出ていました。そして as if 〜ではその力がどのように他の人よりも高いのかを例えを上げて説明しているようです。

he は誰を指すのでしょうか? Gatsby です。

those は誰もが「ああ、あれかと」想像するような、「例の」「あの」〜かとわかるようなものを指すことを表しています。

that は直前の those intricate machines を指して言いかえています。具体的にその machines がどんな働きをするのか説明しています。

ギャッツビーはどんな小さなチャンスも逃さずものにする……その様はさながら想像もできないほど離れた所で起きた地震でも逃さず感知して記録する複雑で精巧な機械のようだ……と言っているようです。なにか鋭いものを感じますが……。

⑥ This responsiveness had nothing to do with that flabby impressionability which is dignified under the name of the “creative temperament" — it was an extraordinary gift for hope, a romantic readiness such as I have never found in any other person and which it is not likely I shall ever find again.

【One More Library の原書データでは"creative temperament." でピリオドがついていますが、Scribner の書籍によればピリオドがつかないのが正しいようですので、訂正しておきます。】

(前半部分)「直前で説明したようにチャンスを逃さずすぐに反応してすかさず行動を起こす(ギャッツビーの特徴らしきもの)は、(実は)あるものには関係がなかった……そのあるものというのは、ここに注意してほしいのだけど、ゆるみきってお粗末な感受性(いろんなものを感じとる力)で……そしてそのお粗末な感受性は表向き一応(あるものでごまかして)体面を保っている状態だったんだけど、じゃあ何で表向き体面を取りつくろっていたかと言うと、建前として『他の人とは異なる独自の発想が見られるという性質や傾向、特徴』を上げていた」

This は直前で説明したチャンスを逃さない様を指しています。

that はここでは読者の関心をことさらに引こうとして使われているようです。「ん? なんだろう? どんなものだろう?」と読者に気にかけてほしいように感じられます。

which は直前の that flabby impressionability を指して言いかえています。

引用符(“)は読者の関心を特に引いて強く印象に残したいという思いも感じられますし、少し皮肉を交えた気持ちも感じられます。

ギャッツビーってのは確かにチャンスを逃さずものにするのは早かった、でもそれは別に、(ギャッツビーのいろんな特徴の中でも特に目立っていた)お粗末な感受性とは全然関係なかった…つまりチャンスに飛びつくのは早かったけど、だからといって感受性が優れていたわけではない、(そこのところを勘違いしてもらっては困る)……そしてそのお粗末な感受性は(誰の目にも明らかだったからこそごまかす必要があったわけで)「人と違うのは独自の発想をもっているからだ」という建前をふりかざして表向きの体面を保っていた……と言っているようです。
要は、成功には目ざとかったけど、(人から見たらどう考えても)ふつうそれくらいわかるだろ、みたいな鈍いところが人の目についていて、(もしかしたら本人も気づいていたのでしょうか?)、で、そこはごまかしてとりつくろわないとまずいな…ということで、いや、俺ってさ、独創的だから…みたいな感じでやりすごしていたのでしょうか?

(後半部分)「前の部分で説明したように、チャンスを逃さずすぐに反応してすかさず行動を起こせるのは、それは普通では考えられないような尋常ならざる生まれ持った能力で、自分の望みが叶い明るい未来が待っていると信じて疑わないでいられる能力を持っているからで、……また同様に現実には考えられないような早さで安易によく考えずに飛びつく状態や傾向にもつながっている……そんな状態や傾向のたぐいをギャッツビー以外のどの人を取り上げてみても自分は見たことがない、……なおかつそんな状態や傾向を今後また自分が見る可能性はないだろう」

“–“(ダッシュ)は直前の部分と関わりがあることを示しています。

it はThis responsiveness を指しています。gift は「神から授かった能力、生まれ持った才能」というニュアンスで使われています。

“,"(コンマ)で区切ってあるのは、直前の an extraordinary gift for hope に加えてさらに、This responsiveness について他の説明を付け加えることを示しています。

such は直前の a romantic readiness を指して言いかえています。「そういうたぐいのもの」と種類を表すニュアンスがあります。as は直前の such を指して言いかえると同時に、such が具体的にはどのようなものなのかを説明しています。この such は本来後に出てくる found の後にあるはずのものが a romantic readiness に引っ張られて前に出ています。

other person は「誰か」を除いた他の人を指します。誰を除くのでしょうか? Gatsby です。

which は a romantic readiness を指して言いかえています。本来後に出てくる find の後にあるはずのものが a romantic readiness を指すので前に引っ張られて出ています。

it は後に出てくるもの I shall ever find again を指しています。shall は今後の予想を表しています。

チャンスを逃さずものにできるところは、言いかえれば普通の人には考えられないほど(脳天気?に)必ず自分の望みが叶うと信じて疑わないでいられる能力を持っているとも言える……そしてさらに言えばそういうところは普通そんな安易に飛びついて本当に大丈夫?よく考えたほうがよくない?とはたで見ていたら思わずにいられない状態や傾向が見える事態にもつながっている……そういう状態や傾向を自分は Gatsby 以外の誰にもいついかなるときでも見たことがないし、今後もいつの時点であってもそういう状態や傾向を同じように二度三度と見る可能性はないだろう……。 
チャンスを逃さずものにできるのは、信じられないくらい楽天的で自分の未来を信じて疑わないところがあるからで、またすぐ飛びつきすぎで危なっかしいくらいだったのだけど、そんな危なっかしいのは Gatsby しか見たことないし、これから先もそんな危なっかしいのはきっと見ることないと思う……。
ずいぶんと危なっかしかったようですが、何がどんなふうに危なっかしかったのでしょうか?

⑦ No — Gatsby turned out all right at the end; it is what preyed on Gatsby, what foul dust floated in the wake of his dreams that temporarily closed out my interest in the abortive sorrows and short-winded elations of men.

(前半部分)「そんなに危なっかしいなら結局失敗したんじゃないの?って思うでしょ? ところが違うの。じゃあどうだったのかっていうと、ギャッツビーは結局万事何もかも問題なく上首尾に運んだんだ」

直前の内容で Gatsby みたいな危なっかしいのは見たことないし、もうきっとそんな危なっかしいのは見ることないと思う、と言っていました。それならば、Gatsby がそんなにも危なっかしいのであれば、Gatsby が成功するなんて絶対ありえないんじゃないか、と普通は思わないでしょうか? 読者がそう思いそうなところを、No の一語で打ち消しているのではないでしょうか? そうすると「えっ、違うの? どういうことよ?」と読者は思うかもしれません。そこで"–“(ダッシュ)を続けて、じゃあどうだったのかと、具体的な説明を加えています。

予想に反して失敗には終わらなかったんだ、万事結果オーライで収まったんだ……。へえ、そうなんだ……ふ〜ん……危なっかしいことばっかやってて、それでうまくいったんだ……。それで?

さて、いよいよ今回の考えるヒントに示した箇所が出てきます。

(後半部分)「危ない橋ばかり渡りながらうまくいったばかりに、かえってギャッツビーはむしばまれてしまった……そしていろんな夢や理想が実現していったその経過が残る跡に危ない橋ばかり渡りながらうまくいったことに伴う腐敗した汚いものが残って漂っていた……自分はそれを目にしてしまった……その結果、限られた時期だけだったとはいえ、自分があることに対する興味や関心をまったく持てなくなってしまったことがあった……それはこの世の誰もが経験するであろう挫折して味わうつらさだったり、ほんのつかの間しか味わえないような達成感で舞い上がった高揚感といったものだった」

“;"(セミコロン)は、直前の内容と関わりがあることを示しています。

it は直前の内容、すなわち Gatsby turned out all right at the end. を指しています。危なかっしいことばかりやっていたのに万事結果オーライで収まったことでギャッツビーに何かあったようです。what は抽象的に何かを表すのに使われています。何かが Gatsby をむしばんだ……それは危ない橋ばかり渡っていたのにうまくいってしまった…というそのこと自体…こそがギャッツビーをむしばんだ……。 つまり、Gatsby turned out all right at the end = what です。

“,"(コンマ)に続いて出てくる what も同じものを指しています。ただ今度の what は次に続く foul dust がどのようなものなのかを説明しています。つまり、危ない橋ばかり渡っていたのにうまくいってしまった…ことに関わりのあるfoul dust ということです。

wake は「何かが通り過ぎたり経過した跡」を表します。そこから in the wake of で「〜の結果」とか「〜の後に」といった意味を表すようです。

次のhis は誰を指すのでしょうか? Gatsby です。

ギャッツビーのいろんな夢や理想がおそらく実現したのではないでしょうか? そして実現したその跡の状態が問題のようです。危ない橋ばかり渡っていたのにうまくいくにはいったのだけれども、その経過が残る跡には、危ない橋ばかり渡りながらうまくいったことに伴う foul dust が漂っていた…ようです。

次のthat は直前の what foul dust floated in the wake of his dreams を指して言いかえています。

危なっかしいことばっかりやっててもうまくいったからそれでよかったかというと、実はそうじゃなかった。それがかえってあだになった。ギャッツビー自身が苦しむことになったし、それにたしかに思い通りになっていたとしてもその跡(後)には腐った汚らわしいものが何か消えずに残っていたらしく、「自分」はそれを目にしてしまった。そのせいで普通なら挫折したら辛いはずだからそういうことは否定的に捉えるはずなのに別にそうした辛さが気にならなかったり、何かを頑張って(時間をかけて)努力して達成しても一瞬で終わるような高揚感ならそんなものになんの価値があるのかと無気力というか自暴自棄に近いような精神状態にまで?なった時期があった……ということのようです……。

 

おつかれさまでした。今回も長かったですねえ。難しかったですねえ。

前回、「自分」は辛抱強く黙って人を受け入れるように努めてきたけれども、でもその辛抱我慢にも限度があると思わずにいられない経験があったようだとみてきました。その経験とは、どうやら Gatsby にまつわるものではないでしょうか? ④⑤⑥と Gatsby に対する嫌悪感をあらわにし、皮肉まで交えながら批判ばかりしているようです。その経験がきっかけで、③もう他人の秘密なんてうんざりだ、と思うようになり、①辛抱強くあるためにいろいろ努力するのをやめたようにも読めます。

今回の考えるヒントに示したお題 「今回の範囲の最後に出てくる what foul dust floated in the wake of his dreams that temporarily closed out my interest in the abortive sorrows and short-winded elations of men. とはどういうことを言っているのか」 ですが……

なんだかリスクをかえりみず欲望のままに?思うがままにいろんな夢や理想を次々と実現していったようですけれど、どうもやり方でもまずかったのでしょうか? 腐った汚らわしい副産物まで残ってしまったようです……。そんな汚らわしいものが残ってしまうのなら、成功してなんになる? 挫折なんてどってことないさ、あんな汚らわしいものができてしまうくらいなら、挫折の方がましさ。成功成功っていうけどさ、そんな達成感や高揚感なんて、一瞬で終わるじゃないか。一晩寝たらいつもの日常に逆戻りじゃないか。あんな汚らわしいものを生み出してまで頑張る価値なんてないよ。……「自分」はギャッツビーの姿を通してそういう気持ちにまでなったようです。

いったい何があったんでしょうか? どうやらギャッツビーは望むがままに事を運べたようですが、ただどんなやり方をしたのかが問題になりそうです。

②で「自分」は世間の人たちがみんな倫理道徳規範をちゃんと守ってほしいと思うようになったと言っていました。どうやらその辺りが関係ありそうです……。腐った汚らわしい副産物……倫理道徳規範に外れたやり方をしていたとしたら……望むものを手に入れていたとしても……どうしても腐った汚らわしいものまでいっしょに……ということでしょうか?

「自分」はいったい何を目にしたのか、それをきっとこれから語ってくれるはずです。

そこに注目しながら続きをみていきましょう。

ただ、次回からしばらく今度は「自分」の話になります。でもその「自分」の話を通じて、後々ギャッツビーとの違いがよくわかってくると思います。

物語が動き出すまでにはまだ時間がかかりますが、ぜひ先々の展開を楽しみに、一緒に読んでみてください。

 

第4回の範囲は、5ページ第2段落から5ページ最後まで(My family have 〜から spring of twenty-twoまで)をみていきます。

次回の考えるヒントは……

  • 末尾から8行目と7行目に出てくる the bond business は何を表しているのか

 

前回も今回もしんどい……。こんな調子でずっと続かれたんじゃあ……。大丈夫です。次回はもっとマシになります。

物語の導入部分なので、特に最初は(くどくどとしたような)説明が続きます。でも必ず登場人物も増え、しゃべりの場面も出てきて、話の展開も面白くなってきます。

ぜひ続きを一緒に読んでみてください。

 

最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。

Point

・どうして作者はその言葉を使用したのか

・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか

・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか

 

注意!

このコンテンツはこのサイトでのみ公開いたします。

このコンテンツの著作権はすべて著作者が保有いたします。

このコンテンツは閲覧えつらん以外の利用をすべて禁止いたします。

 

【お願い】

このコンテンツは無料で閲覧いただけますが、このページ末尾にある"お心付け"ボタンからぜひお心付けをいただけませんでしょうか。100円からお願いしております。ご検討いただけましたらありがたく存じます。

 

なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。

今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。

Posted by preciousgraceful-hm