Gatsby-2
このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。
取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。
ぜひ一緒に、英語の原書を丁寧に読んでみませんか。
(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)
さて、第1回ではタイトルと冒頭の詩をみてきました。
どうやら派手に目立つ金持ちの男に飛びつく女とそういう女の気を引きたい男が出てくる話らしいこと、そして
タイトルの"Great"が何を表しているのか――は、このお話を最後まで読み進めながら考えていきたいこと……を確認しました。
それではいよいよ本文をみていきましょう。
原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。
第2回の範囲はChapter 1の最初から第4段落第1文まで(In my younger and 〜から admission that it has a limit. まで)をみていきます。
まず、今回の考えるヒントを上げます。
- 第3段落第3文前半 The abnormal mind is quick to detect and attach itself to this quality when it appears in a normal person, とは、具体的にはどういうことを言っているのか
前回もお伝えしたとおり、この作品は、とてもむずかしい、わかりにくい文章がたびたび出てきます。特に Chapter 1 の第2回の範囲は何を言っているのかさっぱり意味がわからず途方に暮れそうになってもちっとも不思議ではないくらい……
でも、それほどむずかしくもないし、何を言っているのかちゃんと分かる、話の展開を追っていける比較的簡単な文章も必ず合間合間に出てきます。
だから、必ず読みやすい文章も出てくると信じて、読み続けてみてください。
なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。
主に使用する辞書
『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)
『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)
『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)
それでは本文をみていきましょう。
① In my younger and more vulnerable years my father gave me some advice that I’ve been turning over in my mind ever since.
「今の自分と比べて若くてかつナイーブだった時に、父親が自分に何か忠告を、あるいは大切な忠告を与えたのだけれども、その時以来ずっとその忠告をめぐって自分は何度も頭の中でぐるぐるといろんな思いや考えを巡らせている状態だ」
「若くてナイーブな時」ってどんな時期でしょう? なんとなく思い当たりませんか? もしかして誰しも十代前半頃に通る?
some はどんな advice なのかをあえてぼやかすのに使われているとも解釈できるし、「大切な」「重要な」というニュアンスを付け加えるために使われているとも解釈できます。
次の that は"some advice"を指しています。本来なら後の over の直後にあるはずなのが、some advice を指すので 前に引っ張られて出てきています。
この物語の冒頭の一文です――「自分」と「父親」が出てきました。そして作者はどうも「忠告」に読者の注意を引きたいようです。
思春期に受けたと思われる父親の忠告がずっと心にとどめておくほど自分にとって重要なものだったようですね――さて、どんな忠告なのでしょうか?
② “Whenever you feel like criticizing any one," he told me, “just remember that all the people in this world haven’t had the advantages that you’ve had."
「『だれであろうとも批判したい気持ちに自分がなったときにはいつでも』(ひと呼吸おいて続けて)「自分の周りの世間にいるすべての人たちが、自分が手にしている有利なところを手にしている状態にはない(つまり、すべての人が自分と同じように有利なところを手にしている状態なわけではない)ことを頭にとどめておくといい』――そのように自分は父親から言葉をかけられた(やんわりと忠告を受けた)」
he は誰を指しているのでしょうか? ①で父親が自分に忠告を与えたと言っていましたから、きっと「父親」を指しているのではないでしょうか?
最初のセリフは he(父親)が me(自分)にかけた言葉なので、you は me つまり「自分」を表します。
続きのセリフを口にする前にひと呼吸おいたことで、これから口にする言葉を強調する効果もあるかもしれません。
just は命令形の前に置かれるとニュアンスを和らげる効果があります。父親が頭ごなしに命令しているのではなく、子どもである自分の気持ちに配慮している、微妙な年齢であるから気づかったものの言い方をしているニュアンスが加わっています。
次の thatは直前の advantages を指して代わりに言いかえています。本来は you’ve had の後にくるはずだったものが、advantages に引っ張られて前に出ています。you は誰を指すのでしょうか? Whenever you の you と同じ、つまり me「自分」です。
さっそく「忠告」の具体的な内容が明かされました。
「人の批判はしないほうがいい、誰もがお前と同じように恵まれた立場にあるわけではないのだ」というのが自分が父親から受けた忠告のようです。
①ではこの「忠告」をめぐって「自分」はいろんな思いや考えを巡らせてきたと言っていました。では、どんなことを思ったのでしょうか?
③ He didn’t say any more, but we’ve always been unusually communicative in a reserved way, and I understood that he meant a great deal more than that.
(前半部分)「父親はそれ以上何も言わなかったのだけれども、日頃からいつも口を開かない状態で、つまり黙っていても、自分と父親はお互いの気持ちをよくわかり合っていた」
最初の He は②と同じ「父親」を指します。
but は直前の説明を打ち消すことを表します。「父親がそれ以上何も言わなかった」のであれば、ふつうはお互いの理解は浅くて行き届かないように思えそうですが、実はそうではないのだと打ち消す役目を果たしているようです。
we は誰を指すのでしょうか? ここまで出てきているのは he(父親)とme (つまり you)(自分)の二人だけなので、この we はおそらく「父親と自分の二人」を指すのではないでしょうか?
communicative は「意思疎通の状態が良い」ことを表します。
②で「父親」からやんわりと忠告を受けていたらしいことをみましたが、この③からも「自分」と「父親」との関係が良好だったようだとわかります。
(後半部分)「(自分と父親は言葉にしなくてもわかり合えている仲だったから、)父親が言葉にして自分に伝えた忠告の内容にとどまらず、それ以上にずっともっと沢山のことを父親が自分に伝えたいと思っている気持ちを自分はわかっていた」
and はその前後に「つながり」があることを表しています。
次の that は「これから文が続く」ことを示すサインのようなものです。
he は誰を指すのでしょうか? 「父親」です。
最後のthat は何を指しているのでしょうか? ②の父親の忠告の言葉ではないでしょうか?
父親が何を言いたいのか、自分にどうあってほしいと思っているのか、その真意を自分はちゃんと受けとめていた、ということのようです。父親が頭ごなしに命令したりはしないし、自分の気持ちを気づかってくれて、くどくど説教したりせず、さらっと肝心なことだけ言葉少なに伝えてくれたら、子である自分としても父親の気持ちに応えていこう、そういう気持ちになるかもしれませんね。
④ In consequence, I’m inclined to reserve all judgments, a habit that has opened up many curious natures to me and also made me the victim of not a few veteran bores.
and の前と後で分けてみていきます。
(前半部分)「父親から忠告を受けた結果、あれこれと評価する行為をすべて控える傾向が見られるようになり、その傾向が習慣となって、自分に関しては普通は見られない性格がいろいろ、今までなかったのに現れるようになった」
いったんコンマで文が区切られ、新たな情報 a habit が追加されています。忠告に従った行動を心がけているうちに特定の傾向が見られる状態になり、そしてある「習慣」や「癖」のようなものが生まれた、と言っているようです。どんな習慣でしょうか? 「あれこれと評価する行為をすべて控える」傾向、つまり習慣ではないでしょうか?
次の that は直前の a habit を指しています。具体的には「あれこれと評価する行為をすべて控える習慣」を表します。
父親の忠告を守り、人にとやかく言わないように努めていたら、本来自分はそんな性格じゃないのに、性格まで変わっていった、と言っているようです。
(後半部分)「そのようなあれこれと評価する行為をすべて控える習慣が、自分を、多くのうんざりするような退屈にかけては筋金入りの強者の犠牲者にしてきた」
and と also の間に (a habit) that has が省略されています。
人にとやかく言わないということは、どうやらどんな人も黙って受け入れることになったのでしょうか? 父親の忠告を守っていると、本音は嫌だけど、内心ではうんざりしてるけど、でもどんなに退屈きわまりない人でも何も言わず黙って受け入れざるをえなくなったのでしょうか?
④では父親の忠告を守ったらどうなったのかを説明しているようです。その変化が①でみたようないろんな思いを巡らせる原因になったのでしょうか?
⑤ The abnormal mind is quick to detect and attach itself to this quality when it appears in a normal person, and so it came about that in college I was unjustly accused of being a politician, because I way privy to the secret griefs of wild, unknown men.
今回の考えるヒントに上げた文が出てきました。
「The 〜」と「and 〜」と「because 〜」の3つの部分に分けてみていきます。
(最初の部分)「(あれこれと評価する行為をすべて控えるようにしていると今までとは違う性格になり)、標準から逸脱した状態の心がごく普通の人間に現れるとき、そのような状態の心はあの性格をすぐに見い出し、なおかつそのような状態の心をあの性格とすぐに結びつける」
④で「自分に関しては普通は見られない性格がいろいろ、今までなかったのに現れるようになった」とありました。ということは、The abnormal mind とは今までとは違う性格になった状態の心ではないでしょうか?
itself は何を指しているのか……それは The abnormal mind ではないでしょうか?
では this quality は何を指しているのでしょうか……実はその答えは、this quality の先を読んでいかなければわからないように思われます……。
なおこの this は、作者が読者の気を引こうとして使われているものではないでしょうか?
次に it は何を指すのでしょうか? これも The abnormal mind ではないでしょうか?
④で「あれこれと評価する行為をすべて控えるのが習慣になり、その結果今までとは違う性格になり」、そして⑤で「標準から逸脱した状態の心がごく普通の人間に現れるとき」、そのような状態の心は this quality にすばやく気づいて、なおかつそのような状態の心を this quality にすばやく結びつける……といっているのではないでしょうか。では、this quality とはどのような性格なのか? その答えがストレートに言葉で示してあるのは、実はずっと後になります。 作者はそこまでもったいつけて?ストレートには言葉にせず、何か状況証拠のようなものをつらつらと書き連ねて、this quality について読者にいろいろ思いを巡らせようとしているかのようにも思えます……。
たぶん、「標準の心」つまり自分の本来の心の状態は、意識しなければ人のことをとやかく言う性質なのだけれども、ごく普通の人間にすぎない自分でも父親の忠告に従うことで「標準から逸脱した状態の心」つまり本来の自分とは異なる心の状態になり、人のことをとやかく言わなくなったのだけど、そこにはどうしても「this quality」という要素が欠かせず「this quality」にならざるをえないと言っているのではないでしょうか?
(中間の部分)「だから大学時代に策を弄する(信用できない)人の状態であるという言いがかりをつけられて責められるという不当な扱いを受ける事態が生じることになった」
that は「これから文が続く」ことを示すサインのようなものです。
本来の自分とは異なる心の状態になり性格が変わって this quality になったから、どんな人でも黙って受け入れていたら、何か誤解でもあったのでしょうか……自分としては心外なことに「何たくらんでんだ」とでも言いがかりをつけられたようです……。
(最後の部分)「そんな事態になった理由は、自分が知らない無法者のような男子学生たちの表沙汰にはなっていない(人に知れたら)まずいことを自分が(内密に)知っていたからだ」
どうして自分が責められるようなことになったのか……いわゆる「ワル」のまずい話をなぜか自分が知ってしまったから……そのせいでとんだとばっちりを受けた……と言っているようです。
⑤ではどのように性格が変わったのかを「this quality」という思わせぶりな言葉で説明しているようです。そして、this quality のせいでとんでもない目にあった話を紹介しているようです。そのような不本意な経験も①でみたようにいろんな思いを巡らせるきっかけになったかもしれません。
⑥ Most of the confidences were unsought — frequently I have feigned sleep, preoccupation, or a hostile levity when I realized by some unmistakable sign that an intimate revelation was quivering on the horizon;
「⑤で説明したような秘密は(自分から)求めたものではないこと――実際には、自分のいるところで、親しい間柄でしかしないような打ち明け話が始まるんじゃないかという気配が感じられることに、勘違いなどではなくはっきりと認識できる何らかの兆候によって、自分が気づいたときには、居眠りや(何かに)気を取られているふりをしたり、他には相手の意に反して真面目に話そうとしているものを茶化してごまかすような態度をわざと取ったりすることが頻繁にあった」
“–“(ダッシュ)で続けて、自分から求めていなかったのならば自分はどうしていたのかを説明しています。
some はぼやかすために使われているようです。
that は「これから文が続く」ことを示すサインのようなものです。quivering は「何らかの気配が感じられている」ことを「細かく揺れる動き」を表す言葉を使って比喩的に表しているようです。
知りたくもない秘密をどうして知ることになったのか……自分から訊いたことなんてない、いつも向こうから勝手に話してきたんだ……だから親しくもないのに打ち明け話が始まるぞ…という気配を感じたら、寝ているふりをしたり、何かに気を取られて聞いていないふりをしたり、聞いてほしいと思っている相手の意向は無視しておちゃらけてその場をごまかして聞かずにやりすごそうとしたりすることがよくあった、と言っているようです……。
⑤でとんだとばっちりを受けたと言っていました。では、そもそもそんな目にあったのは秘密を知ったからで、じゃあ、どうして秘密を知ったのか……という疑問に⑥で答えているようです。しかも「自分」は秘密を知らないですませようといろいろ努力していたと説明しています。
⑦ for the intimate revelations of young men, or at least the terms in which they express them, are usually plagiaristic and marred by obvious suppressions.
are の前と後で分けてみていきます。
(前半部分)「若者の親しい間柄の人にする打ち明け話と、そして他にも最低でもこれだけは確実だと言えることを上げると、そういう話を言葉で表現するときに使われる(特有の)言葉があるのだけど」
最初の for は「理由」を表します。⑥の後半で打ち明け話を聞かないようにしていたと説明していましたが、その理由をここで説明しています。
which は terms を言いかえています。次の they は young men を指します。そして them は the intimate revelations of young men を指します。
「若者が親しい間柄の人に打ち明ける話」が当てはまると思うのだけど、それが必ずしも当てはまらないとしても、最低でもこれだけは確実に当てはまると思うものがあるのだけど、それは「若者が自らの打ち明け話を親しい間柄の人に言葉にして伝える」ときに使う「(特有の)言葉」で――と言っているようです。
そうした打ち明け話のすべてに当てはまらないとしても、最低でもそうした打ち明け話をするときに使う「決まり文句」みたいなものがあって、そうした決まり文句には絶対当てはまると思うのだけど……と――さて、いったい「何」が当てはまると言っているのでしょうか?
(後半部分)「(若者の打ち明け話すべてに当てはまらなくても、そうした打ち明け話に使う決まり文句みたいなものには絶対当てはまるはずなのが、)ほぼ間違いなく話している当人以外の他人から借用したもので、しかも言葉にして伝えていないことが必ずあるのが(話を聞いているときに)わかるので、そのためにそうした話にしろ決まり文句にしろ損なわれてしまう」
obvious は 「紛れもなく認識できる状態」を表しています。suppressions は「言葉にして伝えないこと」を表します。
自分は本当は若者の打ち明け話すべてに当てはまるんじゃないかと思っているけれど、まあそれは言いすぎかもしれないから、ならそうした打ち明け話でよく出てくる決まり文句みたいなのには絶対当てはまるのが、十中八九、話している当人の言葉じゃなくて他人の使っていた借り物の言葉を使っているということ……そんなの真剣に聞く価値あるかな?と首を傾げたくなるような……しかも打ち明けてるようでいて、実はすべてを打ち明けているわけではなくて、話している当人に都合よく言いたくないことは伏せてあるのが話を聞いてても間違いなく確信を持ってわかるので、結局そもそも打ち明け話になってないし……だったら、打ち明け話を聞く気にならなくても当然だろう?と読者の共感を求めているようにも思えます……。
⑦では秘密を知りたくなかったのには他にも理由があったようだということがうかがわれます。⑤で秘密を知っていたがために嫌な思いを味わった話が出ていましたが、そうした不愉快な経験の他にも秘密を知りたくない理由があって、その理由というのは、そもそも聞く価値がないからだと言っているようです。どうして聞く価値がないのか、まず誰もが使う「決まり文句」を使っているだけであること、そしてすべてを打ち明けているわけではないこと(必ず隠している話があること)、この二つを理由に上げているようです。
こうしたいろんな経験を通して、父親の忠告を守ることにいろんな葛藤?でも感じていたのかもしれません……。
⑧ Reserving judgments is a matter of infinite hope.
「あれこれと評価する行為を控えることは、どこまでも限界なく希望が存在することになる」
a matter「〜ということ」は簡潔にまとめて要約して表現することを表します。
人にとやかく言わないということは黙って受け入れるということで、黙って受け入れてもらえる人にとってはただただその当人に都合のいい「希望」を際限なく持ち続けることができる……のかもしれません……。
⑧はずいぶん短く端的に「自分」の考えをまとめているのでしょうか? ④⑤⑥⑦と「自分」の経験を通した心の葛藤?を経て、「自分」なりに出した結論?のようなものなのでしょうか?
⑨ I am still a little afraid of missing something if I forget that, as my father snobbishly suggested, and I snobbishly repeat, a sense of the fundamental decencies is parcelled out unequally at birth.
「前と変わらず自分は今でも、はっきりと言葉で表現できないけど何か大切なものを見失うのではないかと少し不安に思っている状態なのだけど、それはどのような場合かというと、自分がこれから伝えることを忘れた場合で、じゃあ何を忘れるのかというと、その内容は、父親がえらそうに遠回しに言葉にしてきたことで、そして自分も父親と同じように何度も口にしてきたことなのだけど、それは、そもそも本来、根本的に人として望ましいあり方とはどのようなものか、という考えは、そもそもそういう考えが生まれた最初の時点ですでにたくさんあって、しかもばらばらの状態なのだということだ」
that は「これから文が続くこと」を示しています。as は「これから伝える本題に関して補足情報を付け足しますよ」ということを示しています。
snobbishly は「えらそうに立派な人間のような顔をして」というニュアンスで使われています。
parcelled out は「小分けになっている状態」を表します。
どうしてそこまで人にとやかく言わないようにしてきたのか、その理由を説明しているようです。「いや、前もそうだったけどやっぱり今でも少し不安に思うんだ……何か大切なことを見失ってしまうような気がしてさ、もし、えらそうに聞こえるだろうけど父親が遠回しに教えてくれていたように、そして自分もえらそうに父親と同じことを何度も口にしてきたんだけど、そもそも本来、根本的に人としてどうあるべきかっていう考えにはいろいろあって、しかも(人によって)てんでばらばらだってことを忘れてしまったら……(それは自分たちの考えだけが正しいと思い上がってしまうことになるから)なんかちょっとやっぱり危ない気がする……」と言っているのではないでしょうか?
「父親の忠告」を守らんがために本当は耐えがたい?かもしれない心の葛藤?に悩まされてきて、ついには⑧のような結論?まで出したのだけど、でもそれでも、やっぱり「父親」の思いを裏切るのは忍びない?のでしょうか……。
⑩ And, after boasting this way of my tolerance, I come to the admission that it has a limit.
「こうやってこれだけ長々と自分の辛抱強い性格についていろいろ詳しく自慢げにこれみよがしに説明してきておきながら(言いにくいのだけど実は)その自分の辛抱強い性格にも、はっきり範囲は指定できないけど、でも間違いなく限界があると自分で認めるように変わっていった」
And は、前の段落の内容とつながりがあることを表しています。
this は前の段落でつらつらと説明してきた内容を指しています。
that は「これから文が続く」ことを示しています。次の it は my tolerance を指しています。
さて、⑤に出てきた「this quality」ですが、この⑩の"tolerance"「辛抱強い状態や性格」を指すのではないでしょうか……? ⑤以降⑨までずっとこの「this quality」にまつわる話をつらつらと重ねてきたのではないでしょうか? そしてここで、その答えをずばり一言で明かしているのではないでしょうか?
自分の辛抱強い性格についてくどくどと言い連ねることで、作者は読者に「自分はこんなにも辛抱強いのだ」ということを強く印象づけたいように思えます。そして強く印象づけた上で、そこまで辛抱強ければ誰でも何でも黙って受け入れられたのかと思われてしまいそうだけれど、実際には違っていて、これほど辛抱強い自分でも辛抱できないことがあったのだと、ここにきて訴えているようです……。
さて、長かったですねえ。おつかれさまでした。これで今回の範囲は終了です。
今回の考えるヒントで提示したお題 「第3段落第3文前半 The abnormal mind is quick to detect and attach itself to this quality when it appears in a normal person, とは、具体的にはどういうことを言っているのか」 ですが ―― this quality が⑩に出てくる"tolerance"を指すという……そんな先にあったんじゃあ……そう簡単に気付けないよ……。(詳しくは⑤⑩で説明したとおりです。)
⑤以降は、自分が父親の忠告を守ろうとしていろいろ苦労したり葛藤もあったんだと、「辛抱強さ」にまつわるエピソードを披露したり、自分の正直な思いを吐露しているようです。そんな複雑な思いを味わう原因になった「忠告」とそれにまつわるあれこれを、自分の頭の中で展開されてきた思考を文字にして表している……そんなふうにも解釈できます。
では、どうしてそんなにも「辛抱強い」話をしたのでしょうか? 「辛抱強い」話を通して、本当は何が言いたいのでしょうか?
今回登場した「自分」は、どうやら恵まれた家庭に生まれ育っているようです。だからこそ「父親」に「人にとやかく言わないように」と注意を受けているようです。恵まれた家庭の子には、その子と同じように恵まれているわけではない人の境遇などは(普通)わからないはずで、だからわかりもしないのに軽率に人のことをとやかく言うなと父親は注意したのではないでしょうか? そしてどうやら「自分」は(賢明な)父親の言うことを素直に聞いて注意を守ったのだけれど、そのために本来の性格とは異なり「辛抱強さ」が養われたのだけれども、一方で自分としては不本意な思いもずいぶん味わったようです。それでもなお、やっぱり父親の言うことが正しかったと思っているし、父親にならってきて正解だったと思っている――基本的には……。ただ、にもかかわらず、自分の努力の結果、養われた「辛抱強さ」には、実は限界がある、要は我慢にも限度がある、という経験を「自分」はしたことがあるようです。
これこそが、「辛抱強い」話を通して本当に言いたかったことではないでしょうか? 自分が辛抱強いことを読者にわかってほしいのではなく、これほど辛抱強いはずの自分に実は、我慢にも限度があると思わずにはいられない経験があったのだと、そのことを読者に知ってほしいのではないでしょうか?
では、いったいどんな経験をしたのでしょうか? その辺りも意識しながら、次に読み進めていきましょう。
(なお、タイトルの Great が何を表しているのかは、当分、ずーっと先まで、わからないと思います。それでも、一応そのことを頭の片隅において読んでいってみてください。)
第3回は、続きの4ページ第4段落第2文から5ページ17行目まで(Conduct may be founded 〜から、short-winded elations of men.まで)をみていきます。
第3回の考えるヒントは……
- 第3回の範囲の最後に出てくる what foul dust floated in the wake of his dreams that temporarily closed out my interest in the abortive sorrows and short-winded elations of men. とはどういうことを言っているのか
第2回同様、第3回も難しい……。でも、第2回よりはマシだと思います……。ぜひ一緒にがんばって読んでみてください。
(ちなみに次は、いよいよ Gatsby が出てきます。)
最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。
・どうして作者はその言葉を使用したのか
・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか
・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか
このコンテンツはこのサイトでのみ公開いたします。
このコンテンツの著作権はすべて著作者が保有いたします。
このコンテンツは閲覧以外の利用をすべて禁止いたします。
【お願い】
このコンテンツは無料で閲覧いただけますが、このページ末尾にある"お心付け"ボタンからぜひお心付けをいただけませんでしょうか。100円からお願いしております。ご検討いただけましたらありがたく存じます。
なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。