Gatsby-14

このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。

取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。

ぜひ一緒に、英語の原書を読んでみませんか。

(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)

 

前回まで……久しぶりに親戚のデイジーに再会した「自分」――印象的なデイジーの声を思い出すとともに再確認したようです――やっぱりなんとも言えない魅力があるなあ、と。それから東部に来る前にシカゴへ寄ったときのことを話すとデイジーが大喜びで「戻りましょう」と夫のトムに声をかけたのだけど、なぜかトムの返事はなく……そしてデイジーの方から話題を変えて幼い娘の話に……と思ったら、何を思ったかトムが、デイジーの話を途中でさえぎって割り込んできました……なんだか、見ようによってはトムとデイジーの二人が「自分」の取り合いでもしているようにも思えなくもないような?……。さあ、どういうわけかしばらくじっと息を潜めていた?らしいトムが動き出したようです……それに相変わらず寝てばかりいるようではありますが、ベイカー嬢もいるはずです……この四人の間でどんな話が展開していくのか、さっそくみていきましょう。

 

原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。

第14回の範囲は11ページ3行目から11ページ末尾から11行目まで("What you doing, 〜から、it was she “got done."まで)をみていきます。

まず、今回の考えるヒントを上げます。

  • 11ページ12-13行目 as if he were alert for something more とはどういうことを言っているのか

 

なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。

主に使用する辞書

『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)

『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)

『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)

 

それでは今回の範囲をみていきましょう。

① “What you doing, Nick?"

「『今何(の仕事)をしているのか?ニック』」

このセリフは Tom Buchanan の言葉です。前回の最後にデイジーと「自分」の間に割って入ってきていました。Nick と呼びかけていますから、you はおそらく「自分」でしょう。

What are you doing? の are が省略されているようです。馴れ馴れしいようにも厚かましいようにも横柄なようにも聞こえなくもないような……。

前回の最後に割り込んできたトムが、「自分」に話しかけたようです……ところで、「自分」の名前は"ニック"というようです……第12回で Baker、Daisy、Buchanan の名前について少し、作者になにか意図や思いがあるのではないか?と見ましたが、さて、Nick はどうでしょう?……この物語のいわば語り手の役割を担わされている「自分」= Nick は、これまでみたところでは、地方の町では良家の子息のようでしたが、米国東部の大都会ニューヨークに出てきて借りた家や乗っている車、選んだ仕事などからすると、案外いわゆる"中流"?というか、格別"上流"階級というわけでもなさそうです……つまり、ごく普通の一般的な常識人…どこにでもいるごく普通の人間…要は、おそらく大多数の読者のいわば代表として、このお話の展開を大多数の読者の目線で追っていき説明していくという役割を担っているのではないでしょうか?……そのあたりから考えてみると、Nick という名前は、5セント硬貨を表す nickel という語を連想させるところから「自分」の名前に選ばれたとは考えられないでしょうか?……硬貨の価値としては1ドルの20分の1で、他の硬貨と違うところは銀ではなくニッケルが使われているところのようです……(使われている金属は違っても見た目の色は似ているようです……なお、5セント硬貨よりも安価なお金の1セント硬貨は見た目の色が茶色で他の硬貨とはまったく異なるようです……見た目は同じでも中身は安価という意味で5セント硬貨が選ばれている可能性も?あるかもしれません……)……お金持ちではなくて"庶民"の代表という意味合いの名前になっている?のかもしれません……。
そんな良識の代表者といってもいいような「自分」であるニックに、トムが偉そうに、この東部で何(の仕事)をしているのか、といているようです……。

 

② “I’m a bond man."

「『自分は債券を扱う者だ』」

①でトムに訊かれた「自分」が答えているセリフです。I は「自分」(ニック)を指します。

①のトムの質問に素直に答えているようです……よく①のような訊かれ方をしてムッとしないなあ…という見方もできるかも?しれません……「自分」は今債券を扱う仕事をしていると答えているようです……。

 

③ “Who with?"

「『どこ(の会社)で?』」

本来なら、Who are you doing the bond business with? と訊くところを、トムは極限まで?短縮して尋ねているようです……何様?という印象も……。Who は本来 with の後に来るべきところが、前に出ています。

①〜③のやり取りをみただけでも、トムがいかに横柄で傲慢な嫌な奴かよくわかる気がしますし、「自分」(ニック)が本当に良い人で好青年だなあという思いが強くなりませんか?……久しぶりに会った相手に、もうちょっと訊きようがあるような?……でもきっと、大学時代からトムはこんな調子だったのでしょう……「自分」はもう慣れっこ?……

 

④ I told him.

「自分はどこの会社で債券を扱う仕事をしているのかを伝えた……トムに」

him は①と③で質問をしてきたトムを指します。

ここはセリフの形ではなく、③の質問に対する答えをトムに伝えたと説明しているだけのようです……たぶん、「自分」がどこの会社で仕事をしているのかは、この物語(お話の展開)ではどうでもいいことというか余計な情報だと考えて、作者はあえて読者に具体的な答えを教えていないのでは?ないでしょうか……。

 

⑤ “Never heard of them," he remarked decisively.

「『一度もない…聞いたことが…その名前を』トムが自分の見解を口にした…断定的に」

them は④で「自分」が伝えた、おそらく会社の名前を指します。なぜ it ではなくて them なのか?……たぶん、XXXXX & associates のような"代表者の名前とその仲間たち"のような社名になっている?のではないでしょうか……。

本来は I have never heard of them となるところが、やはり①や③と同じように言葉が簡略化されています。

he はトムを指します。

③でどこの会社かと訊かれて④で答えたら、あろうことか、トムは「そんな会社知らない」と言ったようです……それも問答無用?といった調子で?……もう少し「自分」の気持ちを考えてあげてもいいんじゃない?と言いたくなるような……でも、それがトムのようです……。

 

⑥ That annoyed me.

「そんな会社聞いたことないとトムが断定的に言い切ったことが、不愉快な思いにさせた……自分を」

That は⑤の直前の文全部を指します。

さすがに「自分」も⑤のような答えにはムッとしたのではないでしょうか……だけど、トムはそういう人間なんです……だから……

 

⑦ “You will," I answered shortly. “You will if you stay in the East."

「『君はいずれその会社の名前を耳にすることになると思う』と自分は答えた…手短にあるいは間髪入れずに……『君はいずれその会社の名前を耳にすることになると思うけれど……それには条件があって、その条件は君がとどまることだ……どこにとどまるかというと、米国東部だ』」

「自分」のセリフです。トムに向かって話しているので、You はすべてトムを指します。

本来なら You will hear of them となるところを、⑤であんな失礼なことを言われたので、「自分」もトム流に横柄に?聞こえかねない言い方に変えた?のでしょうか……まあ、相手に合わせただけでしょうか……向こうがずっと失礼な言い草なのに、いいかげんこっちがずっとバカ丁寧に応じているのもなんだかバカバカしくなっても不思議はないようにも思えます……。

⑤のトムに⑥で「自分」はムッとはしたけれども、トムとはそういう(救いがたい)奴で致し方ない?ので、⑦で「自分」がすぐ切り返した?ようです……しかもトム流の物言いで……そして、東部にいなかった君ならわからなくても仕方ないな、東部にいる人なら誰でも知ってるよ……そういう気持ちも込めて?東部にいればそのうちわかるよ、と念押し?したような……

 

⑧ “Oh, I’ll stay in the East, don’t you worry," he said, glancing at Daisy and then back at me, as if he were alert for something more. “I’d be a God damned fool to live anywhere else."

「『ああ、そうだ、(もちろん)俺はとどまるつもりだ……米国東部に……お前は心配しないでくれ』とトムが言った……ちらっと目をやりながら……どこに目をやったかというと、デイジーの方で……そうやってデイジーの方に目をやった後で今度は目線を元に戻して自分の方に向けた……その様子がまるでトムが警戒しているように見えた……何に警戒しているかというと、何かまだ他にもあるのか起こるのではないかと……『俺はとんだ間抜け野郎になる……もし住んだら……どこであろうとも今いる米国東部以外の場所に……』」

⑦の「自分」から受けた言葉に対して、⑧でトムが返しています。

トムのセリフですから、セリフの中の I はトムを指します。そして you は話している相手である「自分」(ニック)を指します。

don’t you worry は you don’t worry 「お前は心配するな」という命令文を don’t を前に出すことで命令的なニュアンスが弱まり、親しい人によびかけるくだけた言い方になっているのではないでしょうか?……ただ、そうは言っても、やっぱり横柄な傲慢な厚かましいようなニュアンスが強いように思われます……そんな親しかったわけでもない久しぶりに会った大学時代の知人に向ける言葉としてはどうなのかなあと……それに、⑤の自分の言葉や対応がまずかったことに気づいているわけでもなさそうな……好意的に解釈すれば、トムの非礼を「自分」にびているようにも聞こえますが、トムみたいな"自己中(心)"に、果たして「自分」がムッとしていることに気づけているでしょうか?……

he はセリフを言っている当人ですから、トムを指します。次の he もトムを指します。

⑦の「自分」から言われた言葉を受けて、⑧ではまずトムは慌てているようです……そして「自分」に言われた最後の言葉を繰り返す形で「俺は米国東部にとどまるつもりだ」と言っています……そしてそこで終わらず、「自分」に対して「心配しないでくれ」という言葉を口にしているようですが……その後の様子を見ると、トムが気にかけているのは、どうもデイジーのようです……ちらっとデイジーに目をやって、また「自分」に目線を戻したのだけれど……なんだかトムの様子がおかしい……何か警戒してるぞ……何だ?……何かまだ他に来るか、どうだ起こるか、おいどうなんだ……と様子を見ている?……そうやって防戦?態勢を取って、口にした言葉が「俺がさあ、どこであろうとも今いる米国東部以外の場所に住んだりなんかしたら、間違いなく底抜けの大間抜け野郎になっちまう」と……要は、I’ll stay in the East という気持ちを別の言い方で表しているようです……トムは東部にとどまる……そう宣言しているようにも聞こえませんか?……ところで、思い出してください――前回、デイジーは大はしゃぎしながらトムに「シカゴに戻りましょう」と呼びかけていました……二人の気持ちが真っ向から対立しているように聞こえませんか?……シカゴに戻りたいとデイジーと、東部にとどまる意志を明言したトム……そうしてみると、トムがデイジーの様子をちらっとうかがっていた理由も、トムが何かを警戒していた理由も、見当がつきませんか?……そして、don’t you worry と口にはしていたけれど、この言葉、「自分」に向けたというよりも、まるでトム自身に向けたんじゃないか……そんなふうにも解釈できそうじゃありませんか?……まるで、「自分」がなんの気なしに口にしたIf you stay in the East という言葉をトム自身の都合のいいように利用して便乗したような……そうするとさらに、I’d be a God damned fool to live anywhere else という言葉も、本当は「自分」に向けたものではない、デイジーを意識して殊更に God damned fool とずいぶん大げさな言葉をわざわざ選んで使っているようにも聞こえませんか?……なんだか「自分」をだしにしてトムとデイジーがやりあっているようにも見えませんか?……

さて、今回の考えるヒントに上げた箇所 as if he were alert for something more ですが……トムは何を警戒していたのでしょうか?――デイジーですね……トムが「自分」の言葉に便乗して「東部にとどまる」宣言をしたことに対して、デイジーがどう出るか、どう反応するか、どう応戦してくるか……そうしたことを警戒していたのではないでしょうか?……そして、どうやらデイジーは何も言わず、何もしなかった?のではないでしょうか……それで思い切って次のセリフを口にしたのではないでしょうか? 前回はデイジーに「シカゴに戻りましょう」と言われても一言も返せなかった?トムのようですが、そのときの意趣返し?なのか、ここでは思いっきり言い返している?ようにも聞こえませんか?

 

⑨ At this point Miss Baker said: “Absolutely!" with such suddenness that I started — it was the first word she uttered since I came into the room.

「まさしくこの時点で、ベイカー嬢が言葉を発した……なんと言ったかというと、『まったくそのとおり!』と……それもものすごく突然のことで……どれくらい突然だったかというと、自分が驚いて飛び上がるほどだった……『まったくそのとおり!』という言葉が、最初の言葉だった……ベイカー嬢が口から発した……いつの時点が基準かというと、自分がバラ色の空間に入ってきた時点……」

this は"今""現在"を表します。ここでは、⑧の最後のセリフをトムが口にしたそのときを指します。

that は「文が続く」ことを示しています。such「ものすごく」の程度がどれくらいなのかを説明しています。

it は"Absolutely!" というセリフを指します。

the first word は本来 uttered の後に来るはずなのが前に出ています。

she は Miss Baker を指します。

the room は第11回に出てきた(9ページ12-13行目)a bright rosy-colored space を指します。

⑧の最後でトムがデイジーに当てつけるような言葉を口にしたまさにその瞬間に、今までずっと寝てばかりいると思っていたベイカー嬢がとうとう!口を開いたようです……してみると、ぜ〜んぶ、周りのやりとりを残らず、ベイカー嬢は聞いていたということでしょうか……なんとまあ……そして、米国東部に住むべきだというトムの意見に完全に同調しているように聞こえます……。さて、その声に「自分」は飛び上がるほど驚いたようです……そりゃそうでしょう……寝てるとばっかり思ってた娘が、いきなり出し抜けに力強く、たぶん大声で?叫ぶなんて……しかも、そのとき初めてベイカー嬢の声を耳にしたはずですから、聞いたことのない声がいきなり辺りに響いたら……どうですか?……幽霊がいきなり声を上げたような、それくらいの驚きや恐怖があっても不思議ではない?かもしれないでしょうか……。ところで、ベイカー嬢の最初のセリフ、そしてその声の出し方というか現れ方というか、なんだか、あの例の有名な英国の探偵をやはり思わせるところがありませんか?……しかも!寝てたのかと思ったら何から何まで聞いていたのかもしれない……作者の遊び心を感じてらっしゃる読者の方もいらっしゃるかもしれません……。なお、⑨の後半部分は、念のため読者の方に誤解のないよう、そのとき初めてベイカー嬢の声を聞いたと伝えているのではないでしょうか?……。

 

⑩ Evidently it surprised her as much as it did me, for she yawned and with a series of rapid, deft movements stood up into the room.

「明らかなことがあったのだけど、それは唐突にベイカー嬢が声を上げたことは、ベイカー嬢自身を驚かせていた……何かと同じ程度に……じゃあ、何と同じ程度かというと、唐突にベイカー嬢が声を上げたことが自分を驚かせた程度だ……その理由は、ベイカー嬢があくびをしていたこと……そしてあくびをした後に連続したすばやく手際のよい(体の)動きで、(寝っ転がっていたカウチから)立ち上がった……バラ色の空間の中で……」

it は⑨の “Absolutely!" であり、the first word she uttered since I came into the room を指します。

her は⑨に出てきた Miss Baker を指します。she も同様です。

into は単に、カウチに寝そべっていたのが、起き上がり立ち上がって、まるでそれまで存在しなかったものがバラ色の空間の中に現れたかのように見えたものを、into という語で表しているだけではないでしょうか?……ベイカー嬢は「自分」がバラ色の空間に入ってきたときからずっと、寝っ転がったままでいるはずですから……。

the room は⑨と同様です。

⑨で「自分」はいきなり声を上げたベイカー嬢に驚いていましたが、どうやら、その声に驚いたのは「自分」ばかりではなく、なんとその声を上げた当の本人も、「自分」に負けず劣らず驚いていた……と言っているようですが、要はベイカー嬢自身も自らの声でビクッと起きた?目を開けた?意識を取り戻した?……そういった感じでしょうか?……そしておもむろに?あくびをして、すばやく手際よく起きるときにするような動作をぱぱっとやって…手を動かすとか、首を回すとか?…、立ち上がったのではないでしょうか?……今までカウチに寝そべっていたときにはまるで存在を消していたようだったのが、大きな声で一言叫ぶと同時に立ち上がり、急にバラ色の空間内でその存在を主張したような……そんな感じではないでしょうか?

 

⑪ “I’m stiff," she complained, “I’ve been lying on that sofa for as long as I can remember."

「『私(の身体)は固まっている』とベイカー嬢が不満を言った。『私はずっと横になっていた……そのソファの上に……ある長さの時間の間……じゃあ、具体的にどれくらいの長さの時間かというと、私が思い出すことのできる長さの時間だ』」

she は⑨で出てきた Miss Baker を指します。⑩で立ち上がったベイカー嬢が、続けて口にした言葉です。

よって、セリフ内の I はベイカー嬢を指します。

that はベイカー嬢がずっと横になっていたそばにあるはずのカウチを指しています。

for as long as I can remember 「ベイカー嬢が思い出すことのできるほどの長さの時間」とは、ベイカー嬢自身が思い出せるすべての時間を指します…ということは、ベイカー嬢自身が思い出せる間はずっと、寝ていた……寝る以外のことはしていない、と言っているのではないでしょうか?

要は起き抜けで、思わず?自分の体の状態を口にしてしまった……そして続けてその理由は、寝てばっかりいたせいだと、言っているのではないでしょうか?……あれだけ寝ていながら、「自分」がバラ色の空間に入ってきたときも起きようとしなかったのに、まさか寝たくて寝ていたのではないとでも言うのでしょうか?……

 

⑫ “Don’t look at me," Daisy retorted, “I’ve been trying to get you to New York all afternoon."

「『目線を向けないで…私に』とデイジーが言い返した。『私はずっとしていた……あることをしようと努めた……あなたを連れ出そうと……ニューヨーク(の街)に……午後の間中ずっと』」

デイジーのセリフのようですので、me と I はデイジーを指します。では、you は誰を指すのでしょうか?……⑪のベイカー嬢の言葉に対してデイジーが口にした言葉のようですので、you はベイカー嬢を指すのではないでしょうか?

New York はたぶんマンハッタン島にある街を指すのではないでしょうか?……今いるのはトムとデイジー夫妻の邸宅で、その邸宅はニューヨークから真東の方向に伸びたロングアイランド島にある卵形の半島――通称"東島"――の入江に面した海岸沿いに広がる郊外の(閑静な?)高級住宅地にあります。

⑪でベイカー嬢が不満を口にしたようでした……それに対してすかさず?デイジーが言い返したようです……私に目線を向けないようにと、(命令文なので)きつい口調?で言っているようです……要は、不満の矛先をデイジーに向けないようにと言っている?のではないでしょうか……そして続けて、デイジーは午後の間中ずっとベイカー嬢をニューヨークの街に連れ出そうと努力し続けていた、と言っているようです……つまり、ベイカー嬢が自らずっと寝たままでいるという過ごし方を選んできたのだと、デイジーのせいでずっと寝たままでいたわけではないと、デイジーのせいにしないでもらいたいと、言っているのではないでしょうか?……⑩と⑪のやりとりをみると、ベイカー嬢とデイジーは言いたいことを遠慮なく言える間柄なのかな?ということがうかがわれませんか?……

 

⑬ “No, thanks," said Miss Baker to the four cocktails just in from the pantry, “I’m absolutely in training."

「『いいえ、気持ちだけありがとう』とベイカー嬢は言った……何かに向かって……四つのグラスに入ったカクテルに向かって……そのカクテルはちょうどバラ色の空間に持って入ってこられたところだった……どこからかというと、配膳の準備をする部屋から持ってこられた……『私はある状態にある……どんな状態かというと、完全に何かをしている状態で……じゃあ、何をしているかというと、体の状態を最も良い状態に整えようとしている』」

ベイカー嬢のセリフですから、I はベイカー嬢を指します。

⑫でデイジーに言われたことに対して “No, thanks" と言ったようにも取れますし――つまり、デイジーがニューヨークの街に連れ出そうとしても応じず、ずっと寝ている方をベイカー嬢は自ら選んだようですから、ニューヨークの街に行くのは断る…"そんなのごめんだ"と言っているようにも聞こえますし――、続いて四つのグラスに入ったカクテルが運び込まれてきたと言っているようですので、⑬の文をみる限りでは、このカクテルに対して"悪いけど私は要らない、飲まない"と言っているようです……そして、要らない、飲まない、と断った理由を、付け加えて説明しているようです……目下あることをしている最中なんだと、じゃあ、いったい何をしているのかというと、体の状態を最も良い状態に整えようとしていると……だからお酒やアルコールのたぐいは口にしないのだと説明しているようです……。

 

⑭ Her host looked at her incredulously.

「ベイカー嬢を客として招いている男性の主人は、視線を向けた……どこにかというと、ベイカー嬢の方に……そのときの様子は疑うような顔つきをしていた」

Her は、⑬の流れから、ベイカー嬢を指すと思われます。

Her host という言葉から、ベイカー嬢の立場は"お客"であり、そのベイカー嬢を"お客"として招いた男性の主人がいることがわかります……女性の主人なら hostess となるはずです……。この状況では、そうした男性の主人は、トムしかいません。

⑬でベイカー嬢は、せっかく振る舞われたカクテルを要らないと断ったようでした……で、きっとこのカクテルを振る舞わせたのは、この邸宅の主であり、"お客"をもてなす主人であるトムでしょうから、だからトムとしては、せっかく自分が用意させたものをあっさりむげにされて、よくもまあ、そんなことをしゃあしゃあと言うなあと、腹を立てた?のではないでしょうか……自分が失礼なことをされるとすぐ怒る?し、しかもそれが顔にも態度にも表れる?ようです……

 

⑮ “You are!" He took down his drink as if it were a drop in the bottom of a glass. “How you ever get anything done is beyond me."

「『あなたは(仰るとおり)目下、体の状態を最も良い状態に整えようとしている』と言って、トムは自分の飲み物(カクテル)を飲み下した……その様子はまるでその飲み物が一滴(だけ)のようだった……どんな一滴かというとグラスの底にあった(残った)……『あるやり方なんだけど……どんなやり方かというとあなたがいつであれ何かをするやり方だけれど……じゃあ、何をするやり方かというとどんなことであれ実現させるやり方で、そのやり方は私の(力や意志が)及ばない』」

⑬でせっかく用意されたカクテルをベイカー嬢が無下に断ったのに腹を立てたトムが⑭で思わず?ベイカー嬢に目をやり(ほとんどにらみつけた?)、そして⑮でトムはひと言ベイカー嬢に言わずにはいられなかったようです……ということで、⑮はトムのセリフです。

セリフの You (you) は、⑬でカクテルを断ったベイカー嬢を指しています。

最初の You are! は後にabsolutely in training が省略されているのではないでしょうか? カクテルを飲もうとしないベイカー嬢に、ひと言嫌味を言っているのではないでしょうか?……ああそうかい、そうだろうよ、もっぱら体の状態を最も良い状態に整えようとしているんだものな、それじゃあ飲めないよな……みたいな気持ちでしょうか?

He と his は、トムを指しています。

it は his drink を指しています。

最後の me はトムを指します。

⑭で思わずベイカー嬢をにらみつけた?トムはまずひと言きつい口調で?あてつけるように嫌味をあびせ、一息つきたかったのか、怒りを沈めて落ち着こうと?思ったのか、それとも本当はまだ言い足りないけど、まずは酒の力を借りて勢いづけようとでも思ったのか?……とにかく用意させたカクテルを一気にごくりと飲んだようです……その様子がまるで、よくグラスの底にほんの一滴しか残ってなくて、それを飲み干すときのような感じだった、とトムがカクテルを飲んだ時の様子が例えを挙げて説明されているようです……そしてやはりもうひと言、言ってやらなければ気がすまなかったのでしょうか?……いつであれベイカー嬢がどんなことであれどんなやり方で実現させるのかはトムの力や意志が及ばない……要は、いつでも、どんなことでも、ベイカー嬢がこうしようと思って実現させるときには、必ずベイカー嬢の思いどおりに実現すると、そしてそこにはトムの意志や力の働く余地がないと……ベイカー嬢のやることはいつだってなんだって、トムにはお手上げだ?どうしようもできない?……トムにしてみれば、せっかく自分が用意させたカクテルをきっとベイカー嬢にも飲んでほしかった?……だけど、ベイカー嬢はにべもなく断った……ベイカー嬢にカクテルを飲ませることができなかった=トムの望むとおりにさせられなかった……そのことを指して、俺の手に負えないと?言っている?……少しくらい気持ちを汲んでくれてもいいだろうよ、ちょっとくらい合わせろよ……そう責める気持ちが二つ目のセリフに表れている?のでしょうか?……

 

⑯ I looked at Miss Baker, wondering what it was she “got done."

「自分は目線をやった……ベイカー嬢の方に……心の中であることについてどうなんだろうと思いながら……じゃあ、どんなことかというと、何だったのだろうか……ベイカー嬢が過去に(思いどおりに)"実現させた"こととは……」

it は she “got done" を指し、what it was の後に that が省略されているのではないでしょうか?……(what it was that she got done)

⑥でムッとした「自分」が⑦で言い返したのを機に、⑧から何やらトムの様子がおかしくなり、そちらに気を取られていたら⑨でいきなりベイカー嬢が声を上げたのに驚き、それからじっと黙って様子をうかがいながらデイジーやトムとのやり取りを聞いていたらしい「自分」……ますますベイカー嬢に興味津々?……トムが⑮でベイカー嬢は何でも思いどおりに実現すると言った言葉に食いつき?そこから思いを巡らせている?ようです……ベイカー嬢は何を実現させたんだ?……すごいなあ? と思っている?ようにも……。ところで第12回の最後に「自分」はベイカー嬢の姿に"賞賛"の気持ちすら覚えていたようでした……これまた、すごいなあ? と思っていた?ようにも……。そしてここでまた、同様に? 尊敬の念に近いものすら? 感じている?ようにも……そして、ますます興味がそそられる?……あららら…もしかして、心を奪われたり?なんかしてる?…とりこに?なったりとか?してる?……それとも今まで見たこともない珍しいものを見たので、今だけ興味本位?……でも、普通に考えると、出されたカクテルを真っ向から拒否って、どうなんでしょう?……トムは確かにいけすかない奴だけど、だからといって、ベイカー嬢の態度は……とういか、そもそも最初からずっと、ベイカー嬢の態度って、どうかと思う…というのが普通のまともな人の反応では?ないでしょうか……「自分」は本来普通のまともな人のはずだけど、やっぱり非日常の不思議な空間で常識や当たり前とは真逆の人たちや現象に取り囲まれているうちに、「自分」の本来のまともな感覚まで狂ってしまった?……

 

おつかれさまでした。どうでしたか?

相変わらず、というかますますもって?トムは横柄で偉そうですねえ……物の言いようがもういったい何様?…のオンパレード?

でもベイカー嬢も負けず劣らず(別の意味で)すごくないですか?……どうやらデイジーと親しい?間柄なのか……

「自分」(ニック)以外の三人って、人としてどうなんだろう?…と思いたくなるような人ばかり出てきて…こんな人たちと関わっていて大丈夫なんでしょうか?……逆に言えば、こんな人たちと関わっていれば、何か事が起きても?不思議ではない?とも言えるでしょうか……第7回で出てきた「あの夏の出来事」が何にせよ、確かに何か(読んでいて)不安を覚えさせるところがあるような?……でも、「自分」はどうもベイカー嬢に惹かれているのではないか?……もし単に今まで見たことのないタイプだったから、なにか物珍しいもの見たさ知りたさ?みたいな感じで惹きつけられた?だけであったとしても、なにかこの三人の世界に?引きずり込まれていく?のには変わりがないでしょうか……。そして「自分」がずるずるとこの人たちの世界に関わっていくからこそ、「あの夏の出来事」を読者は知っていくことができるのかもしれません……。

さて、今回の考えるヒントに上げたお題 「11ページ12-13行目 as if he were alert for something more とはどういうことを言っているのか」 ですが……⑧で説明したとおりです。要は、夫婦喧嘩の真っ最中? そんな状態で夫婦ともに縁のある昔の知り合い呼んで、な〜んだか……呼ばれた方はいい迷惑だったりしないでしょうか……。ところでベイカー嬢の立場って、どうなんでしょうか?……⑨ではトムのセリフに同意しているようでしたが、⑬ではトムの用意したカクテルを飲もうとしていませんでしたし、⑭⑮のトムの様子やセリフから考えても、日頃からトムと格別折り合いが良いわけでもない?ような……ただ、ベイカー嬢がいきなり声を上げたタイミングが、ちょうどトムがデイジーの様子をうかがいながら、"よし今こそデイジーに仕返しするチャンスだ"と言わんばかりに、デイジーにあてつけるように吐いたらしい言葉の直後でした……もしベイカー嬢がデイジーと何でも言い合える親しい間柄だとしたら、一見トムのセリフに同意したように見せかけて、実はデイジーに代わって声を上げた?という捉え方もできなくもない?かもしれない?……要は、あのタイミングですかさずベイカー嬢が声を上げたからこそ、デイジーとトムは直接やり合わずにすんだ?……そしてトムの用意させたカクテルを飲まないことでデイジーに代わって仕返しした?という見方もできる?かもしれない?し、トムが⑧で調子に乗りかけたところをベイカー嬢が⑨と⑬でトムの思いどおりにさせずにトムの思惑をくじいた?という見方もできる?かもしれない?……もしそうだとしたら、⑭⑮のトムの腹立ちは、単にカクテルがらみではなく、もっと深いというか重いというか、デイジーに仕返ししていじめてやろうと思っていたのに、それをはばんだベイカー嬢に対する怒り?…"この野郎(というより"このあま"?)、いいところで邪魔しやがって"みたいな?……ものが、心の奥底というか根底に?あったりする?かもしれない?……だからあんなに過剰にも?思えるような反応をトムは⑮で示した?……そういう見方もできる?かもしれない?でしょうか……。

ところで……読んでいて「自分」(ニック)のことが心配になったりしませんか?……他の登場人物は(どうも第3回の話からしてギャッツビーも含めて)みな読者が共感できそうもない?嫌な奴ばっかり?にも思えなくもないような?……その中で唯一、読者が気にかかって「自分」(ニック)はどうなるのか、大丈夫なのか、確かめずにはいられない……そんな思いにさせられたり?してませんか?……言いかえれば、(第3回でギャッツビーが倫理道徳に外れたことをどうやらしたらしい、とみましたが)、他のいわば問題児?の登場人物が起こしていく事件を作者は読者に知ってほしいのだけれど、問題児のような人間は読者が日常生活を送っている現実世界にはまずいない?かもしれず、問題児のキャラでは読者についてきてもらえない可能性が高い?かもしれない?ので、いわば「自分」の存在を"えさ"にして?、問題児の起こす事件をなんとしても読者に知ってほしい……もしかしたらそう思っている?かもしれない?……と同時に、まさか大多数の読者の中に問題児のような人間がいるはずもない、だから読者の方々に読んでいただくには、「自分」目線で物語を進めるべきだ?と思った?かもしれない?……なにかそのあたりにも作者の思いや意図がもしかしたら?あったりする?かもしれない?でしょうか……。

さて、ベイカー嬢にますます興味がそそられているらしい「自分」ですが、次回はそのベイカー嬢と「自分」が言葉を交わします。楽しみにしていてください。

 

第15回の範囲は11ページ末尾から11行目から12ページ9行目まで(I enjoyed looking at her. 〜から table in the diminished wind.まで)をみていきます。

次回の考えるヒントは……

  • 12ページ6行目 Slenderly, languidly, their hands set lightly on their hips とはどういうことを言っているのか

次回はなんと!「ギャッツビー」の名前が出てきます! ぜひ一緒に読んでみてください。

 

最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。

Point

・どうして作者はその言葉を使用したのか

・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか

・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか

 

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なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。

今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。

Posted by preciousgraceful-hm