Gatsby-18
このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。
取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。
ぜひ一緒に、英語の原書を読んでみませんか。
(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)
前回まで……ようやく四人で夕食の席についたようでしたが、どうやらデイジーとベイカー嬢は「自分」を歓迎していたわけではないらしい――そして「自分」を招いたらしいトムにしても、単に男の味方が欲しかっただけで、客として「自分」を招いたわけではないらしいこともわかりました。どう考えても好青年で人がよすぎる?「自分」が、あんまり可愛そうな気もしませんか?……こんな人たちに関わらない方がよくない?――そう言いたくなったりもしませんか?……でもとにかく、そんな人たちだからこそ、第7回(7ページ末尾から14行目)で言っていた「あの夏の出来事」が起きたのではないでしょうか?……。さて、前回の最後にトムが言い出した本の話が、今回も続くようです……先をみていきましょう。
原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。
第18回の範囲は13ページ10行目から13ページ末尾から12行目まで("Well, it’s a fine book, 〜から、and all that. Do you see?" まで)をみていきます。なお、今回の範囲には、差別的な見解や表現が出てきているようですが、原文を尊重し、そのまま原文に沿ってみていきます。
まず、今回の考えるヒントを上げます。
- 13ページ末尾から15-14行目 After an infinitesimal hesitation he included Daisy with a slight nod, とはどういうことを言っているのか
なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。
主に使用する辞書
『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)
『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)
『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)
それでは、今回の範囲をみていきましょう。
① “Well, it’s a fine book, and everybody ought to read it. The idea is if we don’t look out the white race will be — will be utterly submerged. It’s all scientific stuff; it’s been proved."
「『そうか……『有色人種の帝国出現』という本がすばらしい本なんだ……誰もがみなその本を読むべきだと思う……その本が言っている考えは、もしみんなが用心していなければ、白色人種が将来ある状態になるという――どんな状態になるかというと、完全にすっかり沈んでしまう、あるいは沈められてしまうという……その本の内容はすべて科学的なものだ……その本の内容は証明されている』」
it はすべて、前回最後にトムが口にした本のタイトル The Rise of the Colored Empires を指しているのではないでしょうか?
we は誰を指すのでしょうか? トムを含めて「自分」やデイジー、ベイカー嬢も含まれる?……それだけでしょうか?……本のタイトルからすると、もしかしたらトムは the white race を指す?つもりで we と言っているかもしれません……「トムも含めて白人みんな」と……。
前回、唐突にトムがある本の話をしだしていました……その本についてトムが引き続き説明しているようです……どうやらトムはその本にえらく感化?されたように聞こえませんか?……この物語が出版されたのは1925年で、そういう時代だったのだということを頭においていただきたいのですが……どうもトムは、白人が有色人種に追い落とされる?不安?にでも駆られている?ように聞こえませんか?……で、その不安はどっかから降って湧いたような、ただいたずらに不安を煽るようないいかげんな話のせいではないのだと、まっとうな理論理屈?に基づいた信用できる話なのだと思い込んでいる?ように聞こえませんか?……しかも証拠もあると……何事かとおもいきや……もしかしてトム、今冴えない人生を送っている不安が、その本で主張されている考えにパズルのピースのようにはまった?……もしかしたら無意識のうちに?トム自身の不安をまるで白人全体の不安のようにすり替えた?……本当に不安で危なっかしい?のは、白人でもなく、有色人種でもなく、トムとその本の著者だけ?だったり?……デイジーやベイカー嬢、「自分」はそんな不安などある?……トムだけじゃない?……でも、トムはきっと、その不安を一人で抱えたくない、他の人にも共有してほしい、もしかしたら共感してほしい?のでしょうか……だから、この本に強い思い入れを持っている?のでしょうか……。
② “Tom’s getting very profound," said Daisy, with an expression of unthoughtful sadness. “He reads deep books with long words in them. What was that word we —-“
「『トムはとっても難しいことがわかるようになっている』とデイジーが言った……そのときの表情や様子は、思いがけないもので、嘆かわしく思っているようだった……『トムは読んでいる……難解な本を何冊も……長ったらしい言葉が含まれている……それらの本に……何だったか……あの言葉は……みんなが――』」
He は Tom を指しているのではないでしょうか?
them は deep books を指していると思われます。
that は「あの」「例の」と特定のものを指しているニュアンスで使われているのではないでしょうか?
we は①の場合と同じように、「トムも含めて白人みんな」という意味合いで使われているのではないでしょうか?
①でトムが熱心に本の話をしているのを受けて、②でどうもデイジーが横やりを入れたように思えませんか?……トムったらね、むずかしーいことがわかるようになってるのよー、と皮肉を言われているのではないでしょうか?(体ばっかり大きくてスポーツしかしてなくて全然頭使って何かやるとかそんな人じゃなかったのに、どういう風の吹き回しかしら、突然本なんて読んじゃって、本当に意味わかってんのかしら、受け売りであーだこーだ言ってるけど……なーんて、思われていた?かもしれません……)……そうやって皮肉を言った時のデイジーの表情や様子が、たぶん「自分」には思いがけないもので、デイジーがトムのことを嘆かわしい、哀れだ、みっともない、情けない――そう思っているように見受けられたのではないでしょうか?……そして、最近じゃ小難しい本ばっかり読んでるのよ、長ったらしい、普通の本にはあまり見かけないような、小難しい言葉がたくさん使ってあるような本をね……そういえば、あの言葉、なんだったかしら、えーっと、みんながねえ……とデイジーがおそらく「自分」に説明していたら、どうも誰かがデイジーの言葉を遮ったようです……今トムと夫婦喧嘩の真っ最中のようですので、トムが何をしようと何を言おうと気に入らないだけの話なのかもしれませんが、デイジーはトムが意気揚々と?話したいことを話すのが気に入らなかったのかもしれません……だから口出しして「自分」に二言三言、言わずにはいられない、聞いてもらわずにはいられなかったのかもしれません……①のトムに②でデイジーが横やりを入れて、そのデイジーにまたもや誰かが横やりを入れた……。
③ “Well, these books are all scientific," insisted Tom, glancing at her impatiently.
「『あのなあ、これらの(難解な)本はすべて科学的な内容なんだ』と力説した……トムが……ちらりと目をやって……デイジーの方に……いらいらしながら」
these (books) は、前回の最後にトムが上げたタイトルの本を含めて、②でデイジーが口にした deep books のことを指しているのではないでしょうか?
her は②で口を開いた Daisy を指しているのではないでしょうか?
②のデイジーの言葉を遮ったのは……やっぱり、トムでした……やたらと scientific 科学的な内容だと主張しているようですが、だから何なんでしょうか?……科学的な内容だから信用できる……そう言いたいのかもしれません……で、そう言いさえすれば、デイジーを黙らせることができると思っている?ようです……またもや、トムとデイジーが直接やりあっていますねえ……お前は口出しするな、俺が話してるんだ、黙ってろ、邪魔するな、けっ、俺様がせっかく気持ちよくしゃべってたのに…なーんて、……もしかしたら、トムはそんなことを思っている?かもしれません……。
④ “This fellow has worked out the whole thing. It’s up to us, who are the dominant race, to watch out or these other races will have control of things."
「『この男(著者)が、きちんと答えを出している……全体の(当面の)問題の答えを……あることは、みんなの責務だ……みんなが支配的な優位な人種だ(から)……用心することが(みんなの責務だ)……そして用心することがみんなの果たすべき責務であるのに、その責務を果たさなければ、これらの(白人以外の)他の(有色)人種が持つことになる……支配権を……物事の……』」
This (fellow) は、前回の最後にトムが言い出した本の著者 Goddard を指しているのではないでしょうか?
It は後に出てくる to watch out を指しているのではないでしょうか?
us は①と同じように、「トムを含めて白人みんな」を指すのではないでしょうか?
who は直前の us を指して言いかえているのではないでしょうか?
these は、前回の最後にトムが口にした本に書かれていた「有色人種」を指しているのではないでしょうか? other は「白人以外」を指しているのではないでしょうか?
③でデイジーにでしゃべるなと軽く釘を差した?トムは、④でまた(トムにとって)大事な本の話に戻ったようです……その本の著者が当面(白人が)直面している問題全体の答えを解き明かしてくれている……みんな(白人全体)にかかっているんだ、だって白人こそが支配的な優位な人種なんだから、用心してかからなきゃならない……それを怠れば、有色人種に乗っ取られる?……みたいなことを言っているようです……白人が支配的で優位な人種だと言いながら、有色人種に乗っ取られるのではないかと怯えているように聞こえませんか?……なんだか矛盾しているような?……それに、この説明は、あくまでもトムがしている説明であって、この本を読んだトムが、そういう内容の本だと言っているだけなので、本当にその主張で正しいのかどうかわかりませんが、なんにしても、白人であるトムが、白人のトムは支配的で優位な人間だと思ってきたのだけど、最盛期に比べたら今は冴えない人生?…本人は物足りないし、漠然とした不安?不満?でも抱えている?…で、トムこそが、有色人種なのかどうかわかりませんが、とにかく何かに?誰かに?乗っ取られる?…いや、トムは勝者にしかなったことのない俺様が、敗者になるかもしれないと(敗者になる予感でもあるのでしょうか?)、まるで恐れている?ようにも聞こえませんか?……不安なのは俺だけじゃない……トムは、その本を見つけて、なんか仲間を見つけたような気分にでも、もしかしたらなったのかもしれません……それで、どんぴしゃで共鳴してしまった?……そして、そんな不安など感じていないデイジーには(「自分」でもベイカー嬢でも同様に)、トムはいったい何言ってんだか…となんの共感もできないし、まったくついていけなくても不思議はない?かもしれません……。
⑤ “We’ve got to beat them down," whispered Daisy, winking ferociously toward the fervent sun.
「『みんなでやらなくちゃいけない……倒すことを……有色人種を……徹底的に』と小さい声で話した……デイジーが……片目をつむりながら……その様子にはすさまじい凶暴さが感じられた……何に向かって片目をつむったかというと、燃えるような太陽に向かって……」
We は④の us と同じように、「トムを含めて白人みんな」を指すのではないでしょうか?
them は④の these other races と同じもの、つまり「有色人種」を指すのではないでしょうか?
④でまたもやトムが、おそらくはたから見ているとおかしいくらい真剣に深刻な様子で切々と語るものだから、そばにいたデイジーは茶化さずにはいられなかった?のかもしれません……またもや②と同じように、横から口を挟んで「自分」に話しかけているようです……白人が用心しなければ、有色人種に乗っ取られる、なんてトムが言うものだから、デイジーはその言葉を受けて、有色人種を倒しておかなきゃいけない、それもこてんぱんに、と言ってトムをからかって?いるように聞こえませんか?……聞きようによっては馬鹿にしているようにも取れなくもない?かもしれない?……そんな何を乗っ取られるっていうのよ、何馬鹿げたこと言ってるのよ、頭おかしいんじゃないの?くらいのことも、もしかしたら思っていたりする?……で、まともに聞くのがバカバカしいから、「自分」に、適当に聞いてりゃいいのよ、ぐらいの気持ちも込めつつ?ひと言、声をかけた?……ついでに、西の空にもうじき沈みそうな濃いオレンジ色に輝く太陽に向かって、おどけた様子で?ウィンクして見せた?……今まさに倒さなきゃいけない相手を倒してやろうじゃないのという戦闘モードで?……ところで、第16回のデイジーの様子からしたら、デイジーが倒したい相手って、誰でしょう?……間違いなく有色人種なわけがありません……きっと今、目の前にいて、ぐだぐだと訳のわからない御託を偉そうに並べて熱弁をふるっている、非があるにもかかわらず、その非を認めようとしない?腹立たしいことこの上ない?夫のトム?ではないでしょうか……誰だか検討もつかない有色人種なんて問題にならないわよ、それよりあなたよ、目の前のあなたの方が、よっぼど問題なのよ、ぶっ倒してやりたいのはあなたの方よ、私の気も知らないでのんきにくだらないことぐだぐだ言って、ほんっと、イライラするったらありゃしない!……みたいなことを、もしかしたら思っていたり?するかも?……。
⑥ “You ought to live in California –" began Miss Baker, but Tom interrupted her by shifting heavily in his chair.
「『みんなするべきだ……住むことを……カリフォルニアに』と言い始めた……ベイカー嬢が……そうやってベイカー嬢が話し始めたのだから、ベイカー嬢が続きを話すのが当然の流れのはずなのに、実際にはそうはならず、じゃあどうなったのかというと、トムが邪魔をして遮った……ベイカー嬢が話している途中で……どんな方法によってかというと、ずらして動かして位置を変えて……ドスンドサリのろのろとものうげに……トムの椅子に座った状態で……」
You は特定の誰かに話しかけているというよりは、一般論として「誰でも」というニュアンスで使われているのではないでしょうか? (あるいは、酔っ払った?ベイカー嬢が、トムか?デイジーか?それとも「自分」か?に話しかけている可能性もあるかもしれません……)。第13回と第14回で、シカゴに戻りたいデイジーと東部に住み続けたいトムがやりあっていた?ようでしたので、その話をベイカー嬢がまた持ち出した?可能性もあるかもしれません。
her は Miss Baker を指していると思われます。
his は Tom を指していると思われます。
①〜⑤と「自分」はトムとデイジーの話を交互に聞かされていたような状態でしたが、そこへいきなりベイカー嬢が、これまた①〜⑤の話とはまったく関係なさそうな話を突拍子もなく言い出した?ように思われます……でも、今夢中に?なっている本の話を聞いてもらいたくてたまらないトムが、ベイカー嬢に続きを話させず、椅子に座った態勢をあらためて立て直し、またもや熱く?前のめりで?語り始めるのでしょうか?……ところでベイカー嬢――①〜⑤の話についてきてない?……まあ、どうでもいいと思っている可能性も大?かもしれません……夕食も、お酒も、どうでもいい?…ましてやトムの本の話なんて右から左に聞き流す?というより、そもそも耳に入っていないかも?……それとも、トムが一人で熱を込めて話すのがうっとうしくて、故意に訳のわからないことを言い出して(第14回のときのように)また邪魔した?のでしょうか……そんなベイカー嬢を、デイジーの味方でトムの敵?を、トムが相手にするはずもない?……無視して当然?……。
⑦ “This idea is that we’re Nordics. I am, and you are, and you are, and —-" After an infinitesimal hesitation he included Daisy with a slight nod, and she winked at me again."
「『この本にかかれている考えは、どういうことかというと、みんな北方人種だということだ……俺も北方人種で、お前も北方人種で、君も北方人種で、そして――』あることの後で……何の後かというと、ごくごく短い時間ためらった後で、トムは含めた……デイジーを……ある方法で……どんな方法かというと、かすかにうなづいて……トムがそうやってごくごく短い時間ためらったけどかすかにうなづいてデイジーも北方人種の一人に含めたのを受けて、デイジーが片目をつむってみせた……「自分」に向かって……そうやって「自分」に向かって片目をつむったのは二度目だった」
①の The idea と同じもの、つまりトムが今熱心に話している本、前回の最後にタイトルを説明していた本の内容を指しているのではないでしょうか?
that は「これから文が続く」ことを示し、This idea の内容を説明していると思われます。
we はやっぱり⑤と同じく、「トムを含めて白人みんな」を指すのではないでしょうか? (あるいは、この夕食の席の四人だけを指すとも解釈できるかもしれません……。)
トムのセリフなので、I はトムを指し、続く you は「自分」かベイカー嬢かデイジー?、その次の you もトム以外の三人のいずれか?を指すと思われます……が、ただ、続く After 〜以降を見てみると、he included Daisy とあらためて明示してあるので、セリフの中の you はどちらもデイジーのことではないようだと推測されるのではないでしょうか?
he は ⑥で出てきたTom を指しているのではないでしょうか?
さて、今回の考えるヒントに上げた箇所が出てきました。直前のセリフでは、またもや本の受け売りを熱弁?しているようで、トムを含めた白人みんなってのは、北方人種のことだと、トムも北方人種、「自分」も、ベイカー嬢も、北方人種だと……で、そこまで言ったところで、続きを言葉にしなかったようです……意図的にというよりは、続きを言葉にすることがためらわれたようです……ためらわれた時間はごくごく短かったようですが……でもとにかく迷いが生じたのか、すぐには言葉にできなかったと……どうしてでしょうか?……すんなり全部言っていたら、当然、妻のデイジーも北方人種だと、言っていたのではないでしょうか?……それが言えなかった……で、結局言葉にはしないまま、ただかすかにうなづいただけで、デイジーも北方人種の一人だと、デイジーを含める考えを他の三人に?伝えたようです……どうして言葉にするのがためらわれたのでしょうか?……今、トムとデイジーは折り合いがよくないらしい……けっこう激しい?深刻?重い?夫婦喧嘩の真っ最中?……現に、③ではトムがデイジーをもしかしたらにらみつけて?いたかも?しれない?……そんな状態で、素直に、妻のデイジーも自分と同じ人種だと、口にして認めるのは抵抗が?あったのでしょうか……こっちから折れるとか思われたくないし、とかいろんなプライドとか?が邪魔した?のでしょうか……。
she は Daisy を指しているのではないでしょうか?
⑥でいきなりしゃべりだしたベイカー嬢を無視して、それ以上しゃべらせず、トムが気持ちよく調子に乗って?独演会を?再開したようです……やっぱり、俺もお前も君も、そして今は受け入れがたい妻でさえも、みな、同じ仲間、白人で北方人種というものなのだと、こんこんと三人を説得?でもしようとしている?かのようです……いいか、みんな俺と同じ仲間なんだ、だから俺の気持ち、わかってくれるだろ?わかるよな?わかってくれよ、頼むよ……それがトムの本音?に聞こえたり?しませんか……そんな気持ちとは裏腹に?デイジーに意地張って?強がって?偉そうにふんぞり返って?必死で夫の"こけん"を保とうとしている?ようにも思えませんか?……そんな夫の思いにかまうことなく?…とても受け入れがたい夫など相手にする気がしない、やってられないわと、夫をつっぱねたまま、何また偉そうに言ってるんだか、付き合いきれないわ、やれやれ救いがたい…と言わんばかりに?「自分」にまたもや片目をつむってみせた?……②でも⑤でも⑦でも、ベイカー嬢に言ってもらちがあかないからなのか、それともトムに対抗して張り合って「自分」に働きかけているのか、どういう思いからなのかわかりませんが、そうやって「自分」に声をかけたりウィンクしたりしているデイジーは、「自分」に救いを求めている?ようにも思えませんか?……それに、最初は招かれざる客だったけど、次第に「自分」の礼儀正しさだったり律儀だったり誠実だったりといった人柄に触れて、ちょっとデイジーの「自分」に対する思いだったり態度だったり変わってきたり?してないでしょうか……トムは邪な思いで「自分」を呼んだけど、「自分」はトムの思いに乗っている?ような節はなさそうだし、要は、「自分」はあくまでも真っ白な心?で臨んでいて、誰にも等しく同じように接している?……いわば"中立"?……だったら、信用できそうな気にならないでしょうか?……デイジーの名前を口にできないほど妻を受け入れられなくなっているトムと、夫が何を言おうが聞く耳を持てなくなっている?らしいデイジー……う〜〜〜ん……。
⑧ “– And we’ve produced all the things that go to make civilization — oh, science and art, and all that. Do you see?"
「『――俺たちみんな北方人種で、その北方人種の俺たちみんなが生み出してきた……いろんなものすべてを……どんなものかというと、文明を築き上げるのに役立つものだ――そうだなあ、科学および芸術、それに何もかもすべて残らず全部だ……あなたたちはわかるか?』」
we は⑦と同じく「トムを含めて白人みんな」を指すのではないでしょうか?
that は直前の all the things を指して言いかえていると思われます。
次の that は「強調」するニュアンスで使われているのではないでしょうか?
you はトム以外の三人を指しているのではないでしょうか?
⑦で言いかけて途中になった続きから、また話し始めているようです……北方人種の作ってきたものこそが文明を築き上げてきたと言っているようです……それはどんなものかというと、科学や芸術などありとあらゆるものだと言っているようです……言いかえれば、文明は白人が作り上げてきたものだと、言っているようです……要は、白人が一番偉い、なぜならこの世にあるものはすべて白人が作ってきたものだからだと、そう主張している?のではないでしょうか……トムの目線で?言いかえれば、トムこそが一番偉いと、その一番偉いはずのトムの立場?プライド?何もかも?が脅かされることなどあってはならない、なんとしてもそんな事態は防がなければ、なんとしても一番偉いトムのすべてを守らなければ――それがトムの強迫観念?みたいになってしまった気持ち?本心?かもしれない?……で、その不安を一人でとても抱えきれないから、「自分」にベイカー嬢にデイジーを巻き込もうとしている?ように思えませんか?……頼む、俺の味方になってくれ、一人じゃとても耐えきれないんだ、不安でたまらないんだ、ぼやぼやしてたら俺はあっという間に転落しそうだ、でもどうしていいかわからないんだ……と思っていたかどうかわかりませんが、トムは不安な気持ちになるような本を読んだから不安になったのではなくて、もともと不安に駆られていたところへトム自身の気持ちにぴったりしっくりくる本を読んで、同病相憐れむ?じゃないですが、さながら救いを求めてそういう本にしがみつくようになった?ように思えないでしょうか?……さて、そんな不安など感じていない「自分」やベイカー嬢、ましてや今折り合いの悪いらしいデイジーからしたら、そんなトムの様子はどんなふうに映っていたでしょうか?……はたして、トムが望むようにその不安に寄り添ってもらえたり、わかってもらえたりしたかどうか……。
おつかれさまでした。どうでしたか?
今回はほぼトムの独演会?……トムはどうも自分の思い――不安?にばかりとらわれていたりする?ようにも聞こえませんか?……一人で暴走?……そして、まわりはおいてけぼり?……それともトム一人がおいてけぼり?……というより、誰もついていけなくて、気づいたら一人になっていた?……トムが必死でまわりを巻き込もうとすればするほど、まわりは離れていく?……心の距離がどんどん開いていく?……。
さて、今回の考えるヒントに上げたお題 「13ページ末尾から15-14行目 After an infinitesimal hesitation he included Daisy with a slight nod, とはどういうことを言っているのか」 ですが……⑦で説明したとおりです。第16回でトムに非があるらしいし、そのことをトム自身もある意味認めているのではないか(少なくとも後ろめたいところがあるらしい……)とみましたが、にもかかわらず、非があるのに、デイジーに仕返ししていて(第14回)、反省?とかしているようにはとても思えない……素直になれないのか、意地があるのか、プライドなのか……いや、案外、"俺様が一番偉い"というトムの思い、もしかしたらこれに尽きる?のではないでしょうか?……"俺様が一番偉い"から、何をやっても許される、というより、何でもできる、何をやってもかまわない、デイジーを怒らせたり傷つけたり根深い恨みの思いを残してしまうようなことをしても、それも全部"一番偉い俺様"のすることならかまわない、なぜなら"俺様が一番偉い"から……もしかしたら、すべてこの理屈で片付けている?のではないでしょうか?……そうやってみると、これまで「自分」にしてきたことも――「自分」の意志や気持ちなどまるで無視して、「自分」がどう動くのか、次にどうするのかをトムが決めて、まるでチェスのコマのようにトムが「自分」を無理矢理動かしていた――"一番偉い俺様"だからしてもかまわない、というより"俺様が一番偉い"のだからそういうこともできて当然?ぐらいに思っている?かもしれない……こんな人間と関わってたら、まわりの人はたまったもんじゃありませんねえ……だけど、これが一番的を得ている?かもしれません……。
次回は、デイジーの「自分」に対する思いや態度が、明らかに変わってきたのではないかという節がうかがわれます……招かれざる客どころか……となっていく?かもしれません……。楽しみにしていてください。ぜひまた一緒に読んでみてください。
第19回の範囲は13ページ末尾から11行目から14ページ10行目まで(There was something pathetic 〜から、pleasant street at dusk.まで)をみていきます。
次回の考えるヒントは……
- 14ページ8-10行目 each light deserting her with lingering regret, like children leaving a pleasant street at dusk とはどういうことを言っているのか
次回は、美しい光景が美しく描写し表現されているところが出てきます……楽しみにしていてください。ぜひまた一緒にみていってください。
最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。
・どうして作者はその言葉を使用したのか
・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか
・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか
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なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。