Gatsby-12

このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。

取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。

ぜひ一緒に、英語の原書を読んでみませんか。

(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)

 

前回まで……トム夫妻の邸宅を訪れた「自分」が館に入って案内されたところは、普通の生活を送っている人にはもしかしたら非日常の別世界を思わせるような、不思議な?空間で、そこには若い二人の女性がいました。この二人の女性も、何か捉えどころのないもの?があるかもしれない?……たとえば、二人の着ていた洋服は風にあおられてひらひらゆらゆら揺らめいていたようでしたが、いったいカウチにどんな姿勢で?どんな格好で?どんな具合で?いたのでしょうか……いったいどんな状態でいたら、そんなに揺らめくのか……不思議じゃありませんか?……謎だらけのこの二人の女性、その謎の部分に注意しながら、今回の範囲をみていきましょう。

 

原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。

第12回の範囲は9ページ末尾から9行目から10ページ16行目まで(The younger of the two 〜から、a stunned tribute from me.まで)をみていきます。

まず、今回の考えるヒントを上げます。

  • 10ページ9-10行目 an irrelevant criticism that made it no less charming. とはどういうことを言っているのか

 

なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。

主に使用する辞書

『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)

『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)

『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)

 

それでは今回の範囲をみていきましょう。

① The younger of the two was a stranger to me.

「二人の若い女性のうち年齢が下の方は、自分にとって見知らぬ人だった」

the two は前回の範囲に出てきた9ページ末尾から19行目 two young women を指しています。大きなカウチの上に浮かんでいるような具合で落ち着いていた二人の若い女性のことです。

前回は「自分」がトムのお屋敷の中に入り案内され通された不思議な?空間に二人の若い女性がいました。「自分」が会いに行ったのはトム・ブキャナン夫妻ですから、その女性のうち一人はきっと妻のデイジーだろうと想像がつきます。では、もう一人は?……気になるところです……で、やはりその気になる方から、「自分」も説明しているようです……。で、見た目にもそのデイジーではない方がデイジーよりも年下に見えたようです……デイジーの方は当然、前に(終戦直後に)シカゴの家に寄って滞在したことがあるわけですから、顔を見知っています……が、もう一人の方は会ったこともなかったようです……。

 

② She was extended full length at her end of the divan, completely motionless, and with her chin raised a little, as if she were balancing something on it which was quite likely to fall.

「二人の若い女性のうち年下の方は、全身を思いっきり伸ばした状態だった……どこでそうしていたかというと、寝椅子のように横になれるカウチのうちその年下の女性の方が横になって占領している部分で……まったく動かずじっとしていた……そのように全身を思いっきり伸ばしきってまったく動かずじっとしていた状態のままで、その年下の女性のあごが少し上向きに上がった状態だった……その様はまるでその年下の女性がそのあごの上にある何かのバランスを取っているようだった(本当はあごの上には何も乗っていないけれど)……そのあごの上にある何かは落ちる可能性が相当高かった(ように見えた)」

She は①に出てくる The younger of the two を指しています。次の her も、その次の her も、次の she も同様です。

the divan は、前回の範囲に出てきた9ページ末尾から20-19行目 an enormous couch を指して言いかえています。寝椅子のように横になれるほど大きなカウチだったようです……。

it は her chin を指しています。あごが少し上向きに上がった状態だったけれど、それはどんな具合かというと、まるであごの上に何かが乗っていて、そのバランスを取っているようなあんばいだったと……。

which は直前の something on it を指して言いかえています。あごの上にある何かが落ちそうだったから落ちないようにバランスを取っているように見えたようです……。

①で知らない人だと説明した年下の女性を「自分」が観察した様子を説明しているようです……どうも、その年下の女性は仰向けに横になっていたのではないでしょうか?……そうでなければ、①で顔が見えなかったはずですし……顔が見えたからこそ知らない人だとわかったわけで……それにあごが少し上向きに上がった状態だと言っています……大きなカウチの上に仰向けで横になり、あごが少し上がっている…頭を少し後ろにのけぞらせている?……ような状態でしょうか?……いったい何やってるの?この年下の女性……変じゃない?……ところで、「自分」はお客(様)じゃなくて?……なんだか奇妙な感じがしませんか?……

 

③ If she saw me out of the corner of her eyes she gave no hint of it — indeed, I was almost surprised into murmuring an apology for having disturbed her by coming in.

「もし仮にその年下の女性が自分(の姿)を見たとしても……②の説明に基づけばどうやら大きなカウチの上に仰向けで横になっているようなので、その状態でいる年下の女性がもし自分(の姿)を見るとしたら、それはその年下の女性の両目の端から盗み見るような具合だろうけれど……その年下の女性は自分(の姿)を見たことがわかるような素振りや気配は何も目に見える形では表にあらわさなかった……そういうその年下の女性の有り様や態度は、普通に考えれば「自分」に失礼なはずだけど、実際には「自分」はその年下の女性のそうした有り様や態度を失礼だと思うどころか、逆に驚きのあまりあることをしてしまいそうになったくらいだった……それは何かというと、思わず謝罪の言葉を口走ってしまいそうになったことで……じゃあ、何に対して謝りそうになったのかというと、その年下の女性がそうやって仰向けで横になっている状態でいるところを邪魔したことに対してで……どうやって邪魔したかというと、その年下の女性がそういう状態でいる空間に「自分」が入ってくることによってだった……」

③に出てくる she と her はすべて、①に出てきた The younger of the two を指します。

it は “she saw me" つまり「その年下の女性が「自分」(の姿)を見た」ことを指します。

②に続いて年下の女性の様子が説明されています……そしてそんな様子の年下の女性を前にして「自分」がどんな反応を示したのかが説明されています……。大きなカウチに仰向けで横になり頭を少し後ろにのけぞらせている年下の女性……そんな姿勢で、その空間に入ってきたばかりの「自分」が見えたでしょうか?……もし見えていたとしても、「自分」が入ってきたことに気づいて「自分」に目をやっていたとしても、"見えた"とか"気づいた"とかいった素振りや気配はみじんも見せなかったのではないでしょうか?……つまり、仰向けで横になり頭を少し後ろにのけぞらせた状態のままでいた…ということではないでしょうか? そんなところに出くわして、「自分」は思わず"邪魔してすまない"と謝りそうになったと言っているようです……ええっ⁉ 何か違いませんか? だって、「自分」は"お客(様)"として迎えられ、その空間に案内され通されたはずですから、むしろ寝っ転がったまま無視している女性の方こそ、失礼じゃありませんか?……「自分」は自ら好き好んでその空間に入っていったわけではないですよね……。なんだか非日常の幻想的な不思議な?世界で、なんだか常識とは真逆の事態?珍現象?が起きてませんか?……

 

④ The other girl, Daisy, made an attempt to rise — she leaned slightly forward with a conscientious expression — then she laughed, an absurd, charming little laugh, and I laughed too and came forward into the room.

「もう一人の女子であるデイジーは、起き上がろうとした――デイジーはわずかに前方へと身体を傾けた……全身全霊を傾けているような表情をしていた――それから別の表情になった……それはデイジーが笑った表情だった……おかしなことなど何もないのに笑った…でも笑い声や笑ったときの表情が可愛らしかった……そして笑ったといっても少し笑い声を立てた程度だった……そうやってデイジーが笑ったのに応じて、「自分」も笑った……やっぱりおかしなことなど何もなかったけど……そして少し笑い声を立てた程度だけだったけど……それからその「自分」が案内され通された空間の中へと歩を進めて、デイジーのいる方へと近づいていった」

The other girl は、③までに説明のあった the younger of the two ではない方です。やっぱり Daisy ですね。起き上がろうとした、と言っていますから、デイジーも、もう一人の年下の女性と同じように、大きなカウチの上に(たぶん仰向けで?)横になっていたようです……。もう一人の年下の女性と違って、デイジーの方は、「自分」に気づくと、たぶん挨拶をしようと起き上がろうとしたようです……。

she は The other girl, Daisy を指しています。起き上がろうとして、起き上がったと言えるかどうかですが……たぶんカウチの上で上半身を起こしただけの姿勢で止まったのではないでしょうか?……カウチの上で寝転んだ状態から上半身を起こし、さらに向きを変えて床に足をおろして座った姿勢になり「自分」の方を向いたわけではないのではないでしょうか?……なんでしょうねえ……寝転んだ状態から、もしかしたら腹筋の力だけを使って起き上がったのでしょうか?……だから全身全霊を傾けているような表情だったのでしょうか?……で、そこで力尽きた?のでしょうか……デイジー自身は、そこまで起き上がったところで、もしかしたら満足?したのでしょうか……。

次の she も The other girl, Daisy を指しています。上半身を起こしたところで、そこで気が抜けたのか?あきらめたのか?なんなのかわかりませんが、とにかく何一つおかしなことなどないのに、デイジーは笑ったようです……笑ってごまかした?そんな可能性もある?……いずれにしろ、笑った顔が可愛らしかったようです……声も可愛かった?かもしれません……。

came は話題の中心になっている場所に"近づく"動作を表します。

「自分」が見知らぬ女性の話は③で終え、④からデイジーの話に変わっているようです……「自分」にとっては再会ですね……しかしなんとまあ、寝転んでお出迎え?……起き上がろうとしただけでも、無視しなかっただけでも、年下の女性に比べればまし?……そういう問題でもないような気もしますが……。一つ確かなことは、デイジーの笑い声や笑った顔は、「自分」の目から見て可愛らしいということです……。そして「自分」は、普通に考えたら失礼に思えなくもないような出迎えしか受けてないのに、デイジーに応じて同じように笑って返し、「自分」の方からデイジーのいるところへと近づいていったようです……。なんだかやっぱり、奇妙な気がしませんか?……何かがおかしくないですか?……

 

⑤ “I’m p-paralyzed with happiness."

「私は動けなくなっている……その理由はほろ酔いのようなぼうっとした状態で」

後の⑥からわかりますが、このセリフは Daisy の言葉です。ですから、I はデイジーを指します。

④でデイジーが「自分」を見て笑った後の第一声が、このセリフのようです……これが再会の挨拶?……デイジー自身が"今"どんな状態なのかを説明しているだけです……言い訳のつもり?でしょうか……起き上がろうとしたけどそれ以上立ち上がったりはできない……そのことを釈明しようとして出てきた言葉?なのでしょうか……。

 

⑥ She laughed again, as if she said something very witty, and held my hand for a moment, looking up into my face, promising that there was no one in the world she so much wanted to see.

「デイジーはもう一度笑った……その様はまるでデイジーが何かとてもウィットに富んだことでも言ったかのような笑い方だった……そんな様子で笑った後、今度は「自分」がデイジーに向かって差し出したらしい「自分」の片手をデイジーが取った……その状態が少しの間続いた……そうやって「自分」の片手を取ったまま、デイジーはカウチの上で身体を起こしただけの状態で顔を上に向けて「自分」の方を見上げて「自分」の顔を見入った……そうやって「自分」の片手を取ったまま、なおかつ「自分」の顔を見入ったままの状態で、「自分」に断言した……何を断言したかというと、この世に(他には)誰もいないと、デイジーがこれほど強く会いたいと思っていた人が……」

She (she) はすべて、④に出てきたThe other girl, Daisy を指します。

that は「これから文が続く」ことを示しています。promising の内容を説明しています。

⑤で言い訳?を口にした後、また笑ったようです……また笑ってごまかしたのか?と思いきや、どうも違うようです……というのも、その笑った様子が、デイジー本人はウィットに富んだことを言ったというような表情をしていたらしいからです……どういうことでしょうか?……⑤のセリフが、本人は何か粋なことでも言ったつもりだというのでしょうか?……なんとも不思議な気がします……でもだからこそ、おそらく「自分」もそのあたりの感覚というか感性のズレみたいなものを感じていた?のではないでしょうか……だからこそ、"as if" とまるで〜な様子だったと、わざわざ説明を付け加えているのではないでしょうか?……。
そして、お客(様)を出迎える方の礼儀や態度には問題があるように思えるにもかかわらず、お客(様)である「自分」の方は、出迎える側に対して、どうも礼を尽くしているように思われます……というのも、「自分」は招待主の妻であるデイジーに対して手を差し出したようだからです……西洋では、男性が女性に挨拶するとき、女性の手を取り、その手の甲に軽くキスをすることがあるようです……ここでは、そうした挨拶が交わされている?のではないでしょうか……。で、そのときの様子が、「自分」の差し出した手をデイジーがそのまま離さずとどめた状態で、顔は、というより目は「自分」の顔(というより目?)をじっと見つめた状態で、こんなにも会いたいと思っていた人は他には誰もいないわと「自分」に断言したようです……再会して⑤のセリフの次に口にしたらしい言葉が、要は誰よりもあなたに会いたかった、と面と向かって「自分」に告げたようです……どう思いますか?読者の方々は……なんだか口説き文句とか殺し文句とか、そういうたぐいの言葉にすら聞こえませんか?……再会した相手に、じっと目を見つめながら、"誰よりもあなたに会いたかった"……そう言われたら、どうですか?……ところで、思い出してください……デイジーはトムの妻です……。

 

⑦ That was a way she had.

「そんなふうに相手の男子の手を離さずもったままで、目はやっぱり相手の男子の目をじっと見つめたままで、誰よりもあなたに会いたかったと面と向かって言い切るようなやり方が、デイジーが(いつも)やっていたやり方だった」

That は⑥の後半でデイジーの取った行動や態度を指しています。

she は⑥同様、④に出てきた The other girl, Daisy を指しています。

⑤のセリフの後に、⑥でデイジーが何をしたのかが説明されていました……その⑥でデイジーのやった行為…そうしたやり方…それがいつものデイジーだと、「自分」の目線から説明されているようです……つまり、デイジーとはそういう女性なのだと、⑥で具体例を上げ、⑦でその具体例でデイジーのほぼすべて?を説明できると言っているようにも聞こえませんか?……トムの妻であるデイジーが、いつも⑥で説明したような調子でやっているらしい……どうなんでしょうか?……大丈夫?……これまた、普通の常識的な感覚からはズレているような……やっぱり何かが変に思えませんか?……

 

⑧ She hinted in a murmur that the surname of the balancing girl was Baker.

「デイジーがほんの少しだけ教えてくれた……もごもごと小さな声で……名字は……誰の名字かというと、あごの上に乗せたもののバランスを取っているかのような姿だった(もう一人の)女子の名字で……ベイカーだと」

She は④に出てきた The other girl, Daisy を指します。

that は「これから文が続く」ことを示しています。hinted の内容を説明しています。

balancing は、②の後半で説明されていたあご(頭)の様子を指しています。

⑥でデイジー流らしい挨拶を終え、今度は「自分」の知らないもう一人の女性について、ほんの少しだけ教えてくれたようです……それがその女性の名字で、"ベイカー"という……。ところで、もしかしたら Baker から、何か思い当たるところがある方もいらっしゃるかもしれません……もしかしたら世界一有名?といってもいいかもしれない、英国の探偵……その探偵が住んでいたらしい住所の番地が……Baker…だったような……。しかも、このもう一人の女性のあごが上向きに上がった感じ……ツンと少し上向き加減……英国のドラマでその探偵を演じてらした俳優さんも、ドラマの中でそんなふうにいつもあご先を少しツンと上向き加減にしてらしたような……もしかしたら、このもう一人の女性 Baker には、その有名な探偵をなぞらえた?ようなところが?あったりするかも?しれません……。
ところで、それならば、Daisy という名前は?どうなのでしょうか……いわゆる"ヒナギク"を表すようですが、この花は花びらを一枚一枚ちぎりながら"好き""嫌い""好き""嫌い"…といわゆる恋占いに使われるようです(もしかしたら読者の方々の中にもそうした経験がおありの方もいらっしゃる?でしょうか)……また、シェイクスピアの『ハムレット』の中で悲運を背負わされたオフィーリアという女性を象徴する?花でもあるという解釈もできるかもしれないようで……やっぱり、作者は登場人物の名前にも、何か思いだったり意図を込めている?のでしょうか……。
なお、Buchanan という名字は、1857-61年に米国大統領を務めた人と同じようです……(このブキャナン大統領の後に奴隷制廃止で有名なリンカーンが大統領になったようです……どうもブキャナンは大統領としては米国の統治に失敗?したようで、ブキャナンの無為無策が原因で?南北戦争につながった?…つまり争いを防ぐ手立てを講じず無責任にも?放ったらかし?で争いが激しくなるのをただ座して見るだけだった?ようでもあり……ブキャナンは大統領になるにはなったけれど、ぱっとせず、なんだか尻すぼみ?で結局リンカーンに敗れて退いたようです……)この名字にも意味がある?のでしょうか……特にトムの方に?……。

 

⑨ (I’ve heard it said that Daisy’s murmur was only to make people lean toward her; an irrelevant criticism that made it no less charming.)

「(自分は聞いたことがあった……あることが言われるのを……それは何かというと、デイジーがもごもごと小さな声で話すのは、一つしか理由がなくて……その理由というのは、人がデイジーの方に身体を傾けるように仕向けるためだと……こういう言われ方は、的はずれな言いがかりだ……こういうことを言ったとしても、デイジーがもごもごと小さな声で話す様子が、可愛らしく(見え)なくなることはまったくない)」

it は後の that Daisy’s murmur was only to make people lean toward her を指しています。(it と said の間には being が省略されているようです。)

that は「これから文が続く」ことを示しています。it の内容を説明しています。

her はDaisy を指しています。

さて、今回の考えるヒントに上げた箇所が出てきました。

まず「自分」は、デイジーがもごもごと小さい声で話すのは相手がよく聞こえるようにとデイジーの方に顔を近づけさせたいからだという悪口を上げた上で、その悪口が的はずれだ、当たっていないと、したがって言いがかりにすぎないと、言っているのではないでしょうか?

次の that は直前の an irrelevant criticism を指して言いかえています。それにしても、どうしてそんな悪口を言うのでしょうか?……もしかしたら、そんな悪口を言ってこき下ろせば、デイジーが可愛く見えなくできるとでも思っているのじゃないか?……「自分」はそんなふうに思ったのかもしれません……だから……

最後の it は、Daisy’s murmur を指しているのではないでしょうか? 単にもごもごと小さな声で話すことだけではなくて、聞こえにくいからこそ相手がよく聞こえるようにとデイジーの方に顔を近づけるはずで、その近づいた耳元近くでもごもごと小さな声で話す様子を表しているのではないでしょうか? 悪口を言っても無駄だよ、と……そもそもその悪口は的はずれで当たってないから言いがかりでしかないけど、しかも、そんな悪口を言ったところで、デイジーがもごもごと小さい声で耳元近くで話すときの様子が可愛くなくなるわけじゃないし……っていうかそもそも、デイジーが可愛いのって、別にそういうもごもごと小さい声で話す様子が理由じゃなくない?……そんなふうに話す様子って、別にデイジーが可愛いことと関係なくない?……もしかしたら、「自分」はそんなふうに思っていたり?しないでしょうか……要は、デイジーは別に何をしても可愛いだろうと、そう言ってかばっているのではないでしょうか?

可愛い女子をねたんだのか、一方的なひがみからなのか、とにかくやっかみとしか思えないような悪口を耳にすることが「自分」はあったようです……それで、デイジーのことをかばっているらしい……「自分」はデイジーに対して、見方によっては"甘い"?とも……でもとにかく、違和感を覚えるところも?あったかもしれないけれど、ここは公平を期して、是は是、非は非と区別している?のかもしれません……たしかに変なところはあるけれど、でもそんな悪口を言うのは違うだろう、と……そういう気持ちから、この⑨の一文が添え書きという形で加えられている?のでしょうか……。

 

⑩ At any rate, Miss Baker’s lips fluttered, she nodded at me almost imperceptibly and then quickly tipped her head back again — the object she was balancing had obviously tottered a little and given her something of a fright.

「どういう経緯を経たにせよ、結局次のような事態に至ったのだけど……それはどんな事態かというと、ベイカー嬢の上唇と下唇が軽く震える動きを見せた……そしてベイカー嬢は僕に向かって首を立てに振っ(て会釈し)た……といってもほとんど視覚で気づかないほどかすかに首を動かしただけだった……その後はすばやくベイカー嬢の頭を傾けてまた元の位置に戻した――物体が……ベイカー嬢があごの上に乗せてバランスを取っていた物体が、紛れもなく明らかにふらついたらしい……少しだけど……そしてその物体がたとえ少しであってもふらついたことが、ベイカー嬢に少し恐怖心を与えた」

she は Miss Baker を指しています。次の her、その次の she、最後の her も同様です。

the object は本来 she was balancing の後に来るべきところを、たぶん前に出して目立たせ、the object が tottered したことを、そしてそのことが something of a fright の原因になったことを強調しているのではないでしょうか?

⑨までデイジーの話をしていましたが、⑩ではまたベイカー嬢の話に戻っているようです……おそらく「自分」とデイジーの再会の挨拶が一段落ついて、「自分」はまた意識や注意を、初めて会ったベイカー嬢に戻したのではないでしょうか?……もしかしたら、この初めて会った女子に興味津々?……そして観察したところを説明しているようです……今度は、「自分」の存在に気づき、一応?認めてくれたようです……唇がほんの少しだけど動いたように見えたし――はじめまして?とでも言ったつもりだった?のでしょうか……軽く「自分」に向かって頭を動かし会釈したようにも見えたから……でもそれもほんの一瞬のこと?……「自分」には目もくれず、またあごに集中?……というより、⑤のデイジーの言葉などから考えても、この二人の女子はカウチに寝そべってくつろいでいたというか、ぶっちゃけ眠っていた?のではないでしょうか……(眠りこけていたのではないか…どうもそういう状態で身に着けた白い生地をひらひらゆらゆらとはためかせていたのではないか……なんという姿というか格好なんでしょう……大丈夫でしょうか……)……そして心身ともに、そもそも来客に応対するような態勢ではなかったのでは?……だから、「自分」の相手をするなど面倒なばかりで、とてもそんな気分にはなれず、また眠る態勢に戻った……ただそれだけのことではないでしょうか?……ただ、「自分」の目線で見えたものは、今しがた名字を教えてもらったばかりの初めて会った女子は、まるであご先に何か乗っていて、それを落とさないことに意識を集中している……それも少しぐらついただけでもビクッと反応してしまうほどに……そのような姿に見えたようです……まるで「自分」はこの初対面の女子に心を奪われてしまった?ようにも?見えたりする?……

 

⑪ Again a sort of apology arose to my lips.

「(「自分」はさっきも思わず謝罪の言葉を口走りそうになったけれど)またもや謝罪のたぐいの言葉が(頭や心のなかに)生まれて「自分」の口に向かった」

⑩でみたような様子の初対面の女子の姿を前にして、「自分」はまたもや、③でみたのと同じ状態になりかけたようです……"邪魔して申し訳ない"……そんな気持ちにまたもやなったようです……思わず"いや邪魔して申し訳ない"といった言葉が頭なのか心なのか浮かんで口にまで出かかった……そうです……。なんだか人がよすぎるような気もしないような……やっぱり、なんだか変じゃないですか?……普通の常識とは真逆の事態?が起きてるような……。

 

⑫ Almost any exhibition of complete self-sufficiency draws a stunned tribute from me.

「これから説明するような状態になりかけたのだけど、それはどんな状態かというと、どのような有り様であれさらけ出している姿が……何をさらけ出しているのかというと、完全に自分の世界だけで満ち足りて満足しきっているという内面をどのような有り様であれさらけ出している姿が、引き出したものがあるのだけど、それは驚きのあまり身動きできなくなるほど大きな心理的衝撃を受けて、思わず賞賛してしまうような心の動きや感情で、そのような心の動きや感情がどこから引き出されたのかというと、「自分」自身から引き出された」

⑩の姿を前にした「自分」は⑪で思わずまた"邪魔してすまない"と謝りそうになったと言っていました……そして今度は、ただ謝りそうになっただけではとどまらず、ある姿を目の前にして、立ちすくんで動けないほどの衝撃を受け、思わず賞賛の言葉を口にしてしまいそうになった……そう言っているようです……じゃあ、どんな姿を目にしてそんな状態になったのか……それは、初対面の女子が、見ず知らずの他人である「自分」を前にしながら、人目をはばからず、いわば"寝入っている"姿を、見方によってはあられもない姿を堂々と?さらけ出している……その姿に「自分」はどうやら衝撃を受けたようです……要は、常識人らしい「自分」には考えられない、今まで会ったこともない非常識人の女子に、初めて会った……というところじゃないでしょうか?……普通に考えたら賞賛の対象になどどう考えてもならない気がしますが、なんだか何もかもが逆さまの不思議な世界にでも迷い込んだような……錯覚でも起こしてるんじゃないかと疑いたくなるような……そんな気分になりませんか?……いったい、どうなっているのでしょう……もしかして「自分」は、もうこの初対面の女子にとりこになってしまっている?……

 

おつかれさまでした。今回はまた長かったですねえ…。

トムの妻であるデイジーと、そして新たな登場人物のベイカー嬢をみてきました。どうも二人とも変わってる? ちょっと感覚がズレてる? 少なくとも常識にはとらわれない? 普通一般的な常識から外れている? そして、まるでその二人につられたかのように、常識人に思われる「自分」までも、その二人を前にした反応や対応が、普通は考えられないようなものになってしまっている? なんだか普通の世界とは何もかもが?真逆の異世界にでも迷い込んだようで?頭がおかしくなりそうな?というより、「自分」はもうすでに頭がちょっとおかしくなったりしている?でしょうか……。

今回の考えるヒントに上げたお題 「10ページ9-10行目 an irrelevant criticism that made it no less charming. とはどういうことを言っているのか」 ですが……⑨で説明したとおりです。

ところで、父親の忠告を守り辛抱強さを養った「自分」だからこそ、傲慢な嫌われ者のトムにしろ、普通失礼だし不愉快だと思われそうなところのあるデイジーやベイカー嬢にも、まったく腹を立てたりすることなく普通に接したり応じたりできるのではないでしょうか? 他の人だったらトムもデイジーもベイカー嬢も、まともに相手にしなかったり…などといったことも十分ありうると思いませんか? さて、この物語のタイトルになっている男「ギャッツビー」……彼のことを「自分」は第2回で"あの男だけは我慢がならない"と言っていました……。普通の人なら嫌になるようなトムもデイジーもベイカー嬢も平気な「自分」が"あの男だけは我慢がならない"とまで言うギャッツビー……いったいどんな男なのでしょう……気になるところですが、とりあえずまずは、トムとデイジー夫妻に再会し、そしてベイカー嬢も交えて夕食の席につくであろう今後の展開をみていきたいと思います。

次回からはセリフがいっぱい出てきます。ぜひ一緒に楽しんでみてください。

 

第13回の範囲は10ページ17行目から11ページ2行目まで(I looked back at my cousin, 〜から、his hand on my shoulder.まで)をみていきます。

次回の考えるヒントは……

  • 10ページ23-24行目 a singing compulsion とはどういうことを言っているのか

次回の前半は、少し面倒なわかりにくいところがあるかもしれません……。でも、ようやく!やっと!会話らしい会話が出てきます。

ぜひ一緒にみていってください。

 

最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。

Point

・どうして作者はその言葉を使用したのか

・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか

・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか

 

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なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。

今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。

Posted by preciousgraceful-hm