Gatsby-10

このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。

取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。

ぜひ一緒に、英語の原書を読んでみませんか。

(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)

 

前回まで……無敵で最強?の体を誇り、まだわずか三十歳で巨万の富?を手にしたトムが、なんだか不似合いにも思えるような洒落た邸宅に住み、これまた不似合いとしか思えないようなポロ競技をやっていて、大学時代の華々しい活躍を思えば今は冴えない日々を(もしかしたら)鬱々うつうつと送っているかもしれないのに、"俺様こそが一番偉い"という傲慢で強引な性格らしい……今回は、このトムと「自分」は再会を果たし、いよいよ言葉を交わします。

どんな話をするのでしょうか? そのあたりに注目してみていきましょう。

 

原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。

第10回の範囲は8ページ末尾から8行目から9ページ11行目まで(His speaking voice, 〜から"We’ll go inside."まで)をみていきます。

まず、今回の考えるヒントを上げます。

  • 8ページ末尾から2行目 We were in the same senior society, とはどういうことを言っているのか

 

なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。

主に使用する辞書

『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)

『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)

『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)

 

それでは今回の範囲をみていきましょう。

① His speaking voice, a gruff husky tenor, added to the impression of fractiousness he conveyed.

「トムの話し声は、ぶっきらぼうな感じでしゃがれ声で男性にしては高い声で、そうした声がある印象を助長していたのだけど、それはどんな印象かというと、すぐ頭にきてキレそうな印象で、そういう印象をトムは(相手に)与えていた」

His と he は前回の範囲8ページ21行目に出てくる Tom Buchanan を指しています。

he conveyed の後に来るはずの the impression of fractiousness が前に出ています。

前回の後半でトムの見た目がどんな様子か説明がありましたが、今度はどんな声なのかを説明しているようです……筋肉ムキムキのめちゃくちゃ強そうな見た目で、声は高くてしゃがれていてつっけんどんな感じ……その声もあって、気が短そうな印象に拍車がかかっていたようです……。

 

② There was a touch of paternal contempt in it, even toward people he liked — and there were men at New Haven who had hated his guts.

「少しあるものがあったのだけど、それは父親つまり家長が家族を上から目線で支配するような感じで相手を軽く見るところがあって、そうしたところがどこにあったのかというと、前文で説明したトムの声にあって……で、そうしたところはトムが好意を持っている人に対してですらも現れていて……そんなふうに(高くてしゃがれたつっけんどんな感じの声で余計に気が短そうな印象に拍車がかかるだけでなく)どんな人に対しても常に自分が上の立場に立ち相手をバカにしたような物の言い方のところが少しあったので、イェール大学時代にある人たちがいたのだけど、それはどんな人たちかというと、そうしたトムの厚かましいところを嫌っていた人たちだった」

it は①に出てきた His speaking voice を指しています。

he liked の後に来るはずの people が前に出ています。

who は直前の men at New Haven を指して言いかえています。

his は①同様に、Tom Buchanan を指します。

①で説明したトムの声について、追加情報を付け加えているようです……やっぱり"俺様が一番偉い"という傲慢な性格が声にまで表れている?……そりゃあ相手は嫌でしょうねえ……だからこそ当然のごとく、"俺様が一番偉い"と思い込むなんて、なんて厚かましい野郎だ……と思って嫌う人が出てきても全然不思議ではないですよねえ……。ということは、前回は見た目に大学時代と変わったところがあるという話でしたが、声や話し方は、もう大学時代からすでに、人に嫌われるようなところがあったようですね……。

 

③ “Now, don’t think my opinion on these matters is final," he seemed to say, “just because I’m stronger and more of a man than you are."

「『まあだからといって、俺(様)と話したこの事について俺(様)の意見が決め手になると思うことはない』トムはそう言っているように思えた『ただ単に俺(様)の方がお前より強くて、俺(様)のほうがお前より人として上だからといって、そんなふうに思わなくていい』」

he は①同様に Tom Buchanan を指します。

では、引用符内の my と I はだ誰を指すのでしょうか…… 話し手である he つまり Tom Buchanan を指します。それでは、you は?……それはトムの話し相手です。

さて、トムの発したらしい言葉が出てきました……この③はどうやら、②で説明したトムが人に嫌われるのはどんなところなのか、具体的に説明しているのではないでしょうか?……たぶん、トムと誰かが何かについて話し合ったのでしょう(きっと「自分」もそんな経験があったのではないでしょうか?)…で、"俺様が一番偉い"トムはきっと、自分の意見こそが正しいのだと相手に(もしかしたら?)教えてやった?ぐらいの気持ちで(一方的に?)言い渡した?上で、「まあでも、俺(様)の意見が絶対正しいとも限らないさ…俺(様)の方が間違いなく強いし、人間も上だけどな…でもだからといって、俺(様)が絶対正しいとも限らないさ」みたいな感じ?でしょうか……。

 

④ We were in the same senior society, and while we were never intimate I always had the impression that he approved of me and wanted me to like him with some harsh, defiant wistfulness of his own.

「トムと自分は同じ大学四年生のグループにいた……一方ではトムと自分が親しかった時期は一度もなかったという事実があると同時に別の事実もあるのだけど…それは、自分がいつもある印象を持っていたことで、じゃあどんな印象かというと、トムが自分のことを好意的にみているという印象と、加えてトムが自分にトムに対して好意を持ってほしいと思っているらしいという印象だった…しかもそのトムの思いは、漠然とはしているけれどいかにもトムらしい荒っぽい押し付けがましい一方的にその思いを寄せて押し通そうとする感じだった」

今回の考えるヒントに上げた箇所が出てきました。

We(weも)は、前回の範囲8ページ11行目とか13行目とかに出てきた I「自分」と、前文に出てきた he つまり Tom Buchanan の二人を指しています。

他の I も me も「自分」を指しますし、him と his は Tom Buchanan を指します。

さて、society ですが……何らかの人の集まった状態を指します……では、ここではどんな人の集まった状態か?…… senior はおそらく大学の最上級生つまり四年生を指しますので、自分とトムは四年生のときに何かで…授業なのか何かの集まりなのか…わかりませんが、そういった四年生だけが集まって何かやる機会でもあったのではないでしょうか?……肝心なことは、自分とトムとが知り合った経緯にとにかく別に特別なことは何もなかった…ということが言いたいのではないでしょうか? 単に学年が一緒で、たまたま何かで知り合った、それだけの仲にすぎない…と、そうしたことが言いたいのではないでしょうか?

that は 「これから文が続く」ことを示しています。the impression の具体的な内容を説明しています。

③ではトムがどんなふうに上から目線の物の言い方をするのか、具体的な説明がありましたが、④では打って変わって、「自分」とトムが知り合った経緯を説明しているようです……別に趣味が同じとか共通の友人がいるとかそういう個人的な接点はなく、単に大学のカリキュラム?なのか何かそういった規則や制度のいわば公的な?枠組みの中で知り合っただけだ…と言っているように聞こえませんか?……まるで、自分から望んで知り合いになったわけではない、とわざわざ読者に前置きしているかのような感じもしませんか?……で、自分の方はまったくトムとの付き合いを望んでいなかったのだけど、どうもトムの方が自分のことを気に入ってしまったらしく……第2回の範囲を思い出してください…自分は誰にもとやかく言わず受け入れるように努めていたらしかったですよね……ということは、そうしたところが幸い?したのか災い?したのか……とにかく、トムの方は自分を気に入って、しかもトムのことも自分に気に入ってもらいたいと…思ったようです……。

 

⑤ We talked for a few minutes on the sunny porch.

「トムと自分は話をした…数分ほどの間…日の当たる玄関先のポーチで」

We は④と同じく I と Tom Buchanan を指します。

前回、玄関先のポーチで乗馬服を来たトムが仁王立ち?で立っていた…とみました……開け放たれた観音開きのガラス?扉は陽の光を反射して金色に光っていました……そうやって夕刻のもうじき沈みそうな太陽の光が差し込む玄関先のポーチまで、トムが立っているところまで、自分は歩いていき、おそらく再会の挨拶を交わし、近況を聞きあったり?したのではないでしょうか……。

 

⑥ “I’ve got a nice place here," he said, his eyes flashing about restlessly.

「『俺はこの場所に良い館を手に入れた』トムが言った……トムの両目が眼光鋭くすばやくあちこちに動いて視線が辺りに向けられた…その様は落ち着きがなかった」

he は①同様 Tom Buchanan を指します…ということは、引用符内の I は Tom を指します。his も Tom です。

⑤でひととおり再会の挨拶や近況報告でも済ませたのでしょうか?……⑥ではトムの方から自分の邸宅の話を切り出したようです……前回見たように広大な緑の芝生が辺り一面に広がる中に赤と白の建物が(まるで花のようにでも?)立っている……素敵なお屋敷のようでしたけれど……どうもトムの落ち着きのない目の動きとか、見た目も声も話し方も、トムの印象も、何もかもがやっぱりミスマッチ?…不似合いのような……。

 

⑦ Turning me around by one arm, he moved a broad flat hand along the front vista, including in its sweep a sunken Italian garden, a half acre of deep pungent roses, and a snub-nosed motor-boat that bumped the tide offshore.

「自分の向きを百八十度くるりと回転させて…どうやってかというと、自分の片腕を掴んで……そしてトムは大きくてベッチャリとした片手を動かした…どんなふうにかというと、玄関を背にして立ったときに正面に見える前面の景観を(一方の端から順に反対側の端まで)指し示すように……トムが片手で一方の端から順に反対側の端まで指し示した景観には次に上げるものが含まれていた…周囲の土地より一段低い位置に作られたイタリア式の庭園とか、広さが半エーカー(四十五メートル四方)の土地に色が濃く香りがきついバラの花ばかりが咲いている所や、先が団子鼻の形をしたモーターボートがあった……このモーターボートは沖合の満ちたり引いたりする波にぶつかっていた」

me は「自分」、he は ⑥同様、Tom Buchanan を指します。

its は a broad flat hand を指すのではないでしょうか? 目の前の景観全体をくまなく指すように片手を半円を描くように動かした(すべらした?)動きを sweep という言葉で表しているのではないでしょうか?

that は直前の a snub-nosed motor-boat を指して言いかえています。

Italian garden 「イタリア式庭園」は、古代ローマ文化の復興を目指したルネサンス時代に生まれたようです……なんでしょう、"過去の栄光"とか"その復興"とか、もしかしたらそうしたものが暗示?されていたり?するでしょうか……。

⑥でトムは自身のお屋敷の自慢話?を始めたようです……その流れで、なんと!「自分」の片腕を(たぶん)グイッと掴み、無理矢理?くるりと向きを回転させて…その目的はおそらく、玄関を背にして立っていたトムと向き合って話していた「自分」には見えなかった、「自分」の背に広がるお屋敷の前庭?の景観を「自分」に見せよう、見てもらいたい、という気持ちがあったのではないでしょうか……それにしても強引な……おそらくきちんと手入れの行き届いたれっきとした?イタリア式庭園だったり、目にも鼻にも強烈な印象?を与えるインパクトのある?広〜いバラ園だったり、もしかしたら最新式?の高級な?お金持ちの贅沢な?ボートだったり…しかも前庭の先には浜辺、そして海が…というロケーション…すごいですねえ……だけど、なんだかがさつで?無骨な?トムにはどうなんでしょう…やっぱり、ミスマッチ?不似合い?……

 

⑧ “It belonged to Demaine, the oil man."

「『この場所に俺が手に入れた良い館を所有していたのは、ドゥメインという石油業をやっていた男だ』」

このセリフは、⑥に引き続き he つまり Tom Buchanan の言葉と考えられます。

It は⑥に出てきた (I’ve got) a nice place here を指します。

トムは前庭の景観を「自分」に見せたら今度は、誰からこのお屋敷を手に入れたのか説明しているようです……聞かれてもないのに、前の所有者がどんな人なのかを説明した方がいいと思ったようです……トムは、それを大事なことだと思ったようです……どうしてでしょうか?……おそらく、大金持ちが持っていた屋敷を大金持ちの俺様が手に入れたのだと……つまり自分の経済力や富を誇示したかった?のかもしれません……。

 

⑨ He turned me around again, politely and abruptly.

「トムは自分の向きをまた百八十度くるりと回転させた……どのようにかというと、自分に対する敬意や配慮は感じられたけれども、唐突だった」

He は⑦までと同様に、Tom Buchanan を指します。

⑦で「自分」はくるりと向きを回転させられましたが、トムが見せたいと思った前庭の景観を見せたら、「自分」の意志や思いとは関係なく、またもやトムが「自分」の向きをくるりと回転させたようです……それで politely と言われても…という気もしますが、ともかくトムなりに、「自分」に対して失礼のないようにしていたつもりではあったようです……それにしても、強引だし、何より完全にトムのペースで事が進んでいる?ようです……よくまあ、「自分」は怒らないですねえ……。

 

⑩ “We’ll go inside."

「『俺(様)とお前は中に入るぞ』」

このセリフも⑧と同様に、Tom Buchanan の言葉と推測されます。

We はトムと自分の二人を指します。

「自分」は完全に"一番偉い俺様"の言うとおりに動くものとでも思っているかのようではないでしょうか?……こんな扱いを受けながら、「自分」は黙って受け入れ?従って?いるようです……なんとまあ、我慢強い?……

 

おつかれさまでした。

「自分」はトムとの再会を果たし、いったいどんな会話が繰り広げられるのかと思っていたら……なんでしょう…これって、会話?……なんだかトムが一方的に言いたいことを言って、やりたいようにやってるだけのようにも思えましたが……でも、トムというのは、そういう人間なんですね……。こんな人、きっと普通の人なら付き合えなくないでしょうか?…でも、父親の忠告を守り、辛抱強くなった「自分」は…付き合える、というよりも、成り行きで付き合ってしまった…というところでしょうか? こういうトムの様子をみていると、嫌われて当然、という気がしてきます……。でも、辛抱強い「自分」だからこそ、こんなトムでも付き合った……なんだか、「自分」の辛抱強さを、強烈な嫌われ者のトムという存在を通じて、読者に印象づけたいようにも?思えませんか……。

今回の考えるヒントに上げたお題 「8ページ末尾から2行目 We were in the same senior society, とはどういうことを言っているのか」 ですが……④で説明したとおりです。

トムみたいなマイペースで強引で傲慢な人とわざわざ好き好んで付き合うわけがない、だから、「自分」がどういう経緯でトムと知り合ったのか、決して個人的な接点ではないんだ、ということを殊更ことさらに強調していた…という見方もできないでしょうか?

さて、やっとのことで登場人物のセリフが出てきて、いよいよ…かと期待したのに、今回はなんとなく期待外れ?のような……そして…次回も……。新しく別の登場人物が現れますが、残念ながら、どんな人なのか、そしてお屋敷の中はどんな様子なのか、そういった描写の説明がまたしばらく続きます……。

でも、本当に少しずつ、少しずつ、ですが、セリフも増えて、ようやく物語も展開していきますから、(この作者は本当にもったいつけて引っぱる?なあ……)ぜひまた一緒に読んでみてください。

 

第11回の範囲は9ページ12行目から9ページ末尾から10行目まで(We walked through 〜から slowly to the floor.まで)をみていきます。

次回の考えるヒントは……

  • 9ページ末尾から12行目 the caught wind died out about the room, とはどういうことを言っているのか

次回はいよいよやっと、トムの妻デイジーの登場です。がさつで無骨で傲慢で強引で…身体能力以外良いとこなし?みたいな男の奥さんって、どんな人なのでしょうか?

ぜひまた一緒に読んでみてください。

 

最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。

Point

・どうして作者はその言葉を使用したのか

・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか

・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか

 

注意!

このコンテンツはこのサイトでのみ公開いたします。

このコンテンツの著作権はすべて著作者が保有いたします。

このコンテンツは閲覧えつらん以外の利用をすべて禁止いたします。

 

【お願い】

このコンテンツは無料で閲覧いただけますが、このページ末尾にある"お心付け"ボタンからぜひお心付けをいただけませんでしょうか。100円からお願いしております。ご検討いただけましたらありがたく存じます。

 

なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。

今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。

Posted by preciousgraceful-hm