Gatsby-7
このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。
取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。
ぜひ一緒に、英語の原書を読んでみませんか。
(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)
前回まで……「自分」の住むことになった通称"西島"は、対岸の"東島"と形はそっくりなのだけど、それ以外は何もかもが対照的で、その違いには不安でたまらない気持ちにさせられるものがあると……みてきました。時代は"拝金"に近い空気感?にあふれ、父親の忠告を忠実に守り辛抱強さが培われたほどの「自分」であっても、その時代の波に乗っていたのでしょうか?……やたら"大金"をにおわせる本が出てきていました。そして忘れてはならないのが、倫理道徳規範に外れたらしいギャッツビーの存在……。
ただ今回は、引き続き「自分」の住み家や近所をみていき、最後にほんの少し新たな登場人物が現れます。
それでは今回の範囲をみていきましょう。
原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。
第7回の範囲は、7ページ11行目から7ページ末尾から10行目まで(My house was at the very 〜から、〜spent two days with them in Chicagoまで)をみていきます。
まず、今回の考えるヒントを上げます。
- 7ページ第2段落末尾から4行目最後-3行目最初 it had been overlooked とはどういうことを表しているのか
なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。
主に使用する辞書
『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)
『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)
『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)
それでは前回の続きからみていきます。
① My house was at the very tip of the egg, only fifty yards from the Sound, and squeezed between two huge places that rented for twelve or fifteen thousand a season.
【One More Library の原書データでは小文字(my)で始まっていますが、Scribnerの書籍によれば大文字(My)で始まるのが正しいようですので、訂正しておきます。】
「自分の住む家は西島のまさしく先端(突端)にあった……その位置はロングアイランド海峡からわずか五十ヤードほど(四十メートル余り)で、二軒の大きな邸宅に左右を挟まれて両横からギューッと押しつぶされているような具合だったのだけど、その二軒の大邸宅は賃料が三か月で一万二千ドルから一万五千ドルくらいの額で貸し出されていたものだった」
the egg は前回の最後に出てきた West Egg を指します。
the Sound は前回の⑧に出てきた Long Island Sound を指します。
that は直前の two huge places を指して言いかえています。
第5回でぼろぼろだと言っていた自分の借りた家がどこにあったのか――西島の海にほど近いところだったようです……。そして両隣には高額な賃料の大邸宅が立っていたようです……その間に挟まれて肩身が狭い?…ようにも聞こえます……。
② The one on my right was a colossal affair by any standard — it was a factual imitation of some Hotel de Ville in Normandy, with a tower on one side, spanking new under a thin beard of raw ivy, and a marble swimming pool, and more than forty acres of lawn and garden.
【One More Library の原書データでは小文字(the)で始まっていますが、Scribnerの書籍によれば大文字(The)で始まるのが正しいようですので、訂正しておきます。】
「自分の家の右側にある邸宅はどのような基準に照らしてみても途方もなく巨大な代物だった――自分の家の右側にある邸宅は(フランスの)ノルマンディーにある町のどこかのホテルを実物大でそっくりそのまま再現したものだった……邸宅の片側に塔があり、外観はぴっかぴかで真新しく、伸び放題のままになっているツタが外壁を薄く覆って短い毛がまばらに生えているような具合に見える……邸宅建物から他へ目を移すと大理石でできたプールがあり、他に四十エーカー(だいたい四百メートル四方の広さ)をも超えるほどの芝生と庭園がドーンと広がっている」
The one は①で出てきた two huge places のうちの一つを指しています。ここの my は「自分の家」を指しています。
it は The one on my right を指しています。
Hotel de Ville はおそらくフランス語ですが、英語でも hotel と ville は(-villeで)辞書にあります。
Normandy はフランス北西部の英仏海峡に面した地域で、第二次世界大戦末期に対ドイツ戦を繰り広げるきっかけとなった所として有名ですが、この物語が出版されたのは1925年ですから、後にそうした重要な拠点となることなど知る由もなく、むしろこの地の公爵がイングランドを征服して1066年に英国王ウィリアム1世になった史実(ノルマン人の征服)の方が1925年当時の人には馴染みがあったかもしれません……。長い間英国領だったようですが、ジャンヌ・ダルクで有名な百年戦争の後フランス領になったようです。どうも牧歌的なのんびりしたところのようです……。そうした風光明媚なところによくある建築様式のホテルというのがあったのでしょうか?……で、なぜかそうしたホテルをそっくりそのまま再現した邸宅が米国東海岸のニューヨークからロングアイランド島の方へと三十キロばかり離れた所――しかもロングアイランド海峡に突き出した半島の先端に、「自分」の家の右隣に立っていたようです。
②では「自分」の家の右隣にある大邸宅の話をしています……建物だけでなく、敷地内の様子にもふれています……ホテルみたいな邸宅とは…それって本当に個人宅? という感じでしょうか……プールも贅沢、庭も広いというよりどこかの公園? かと思うような…とにかく何もかも壮大な印象を受けます……。
③ It was Gatsby’s mansion.
【One More Library の原書データでは小文字(it)で始まっていますが、Scribnerの書籍によれば大文字(It)で始まるのが正しいようですので、訂正しておきます。】
「自分の家の右隣にある邸宅がギャッツビーの館だった」
It は②で出てきた The one on my right を指します。
なんと!②で出てきた自分の家の右隣にある大邸宅――何もかもが壮大な邸宅――が、この物語の主役と言ってもいい、あのギャッツビーの家らしいです……。「自分」とギャッツビーの接点が出てきました……。
ところで、どうして作者は Normandy の地にあるホテルそっくりの建物をギャッツビーの館に選んだのでしょうか? Normandy という所は1066年から1450年頃までは英国領で、英仏間で百年近く断続的に続いた戦争を経て、フランス領に変わります。いわば所有者・統治者が変わっているという見方もできます……。この地をめぐって百年もの長い間争いが続いていたともいえます……。なにかここに込められた作者の意図とか思いとか、もしかしたらあったりする?かもしれません……。
④ Or, rather, as I didn’t know Mr. Gatsby, it was a mansion inhabited by a gentleman of that name.
「前文でギャッツビーの館だと断言したけれども、言い換えると正確には、自分が引っ越したときにはまだギャッツビーという名前の男がどんな人物なのかを知っていたわけではないので、自分の家の右隣にある邸宅は、ギャッツビーという名前の紳士が住んでいる(らしい)館だった」
it はここでも②で出てきた The one on my right を指します。
that name は Gatsby を指します。
きっと後々知り合いになるからこそ③で「ギャッツビーの館だ」と断言したのでしょうけれど、正確に言えば自分が引っ越したばかりの時点ではまだ知り合いにはなっていなくて、ギャッツビーという名前の紳士(だと「自分」は思っていたようです)が住んでいるらしいということしかわからなかったと言っているようです……。
⑤ My own house was an eyesore, but it was a small eyesore, and it had been overlooked so I had a view of the water, a partial view of my neighbor’s lawn, and the consoling proximity of millionaires — all for eighty dollars a month.
「自分の家が見るに堪えないものだった……確かに見るに耐えないものだったけれども、自分の家は小さかったから小さな汚点程度だった……自分の家が小さかったことに加えて、自分の家の位置関係は見下される位置にあった……だから自分の家から海の見える景色が自分の家にいながら目に入る位置にあり、自分の家の中から部分的に見える景色に隣家の芝生があり、そうした景色を自分の家から眺められるという特徴に加えて、億万長者の邸宅がいくつも並び立つ住宅街に近いという特徴があり、この特徴が自分の気持ちをなだめるものだった……このように景観に恵まれているとか立地が良いとかといった自分の家に関する特権といってもいいような恩恵を月額八十ドルの賃料で受けられた」
it は My own house を指します。その次の it も同様です。
さて、今回の考えるヒントに上げた箇所が出てきました。「自分の家が見下されていた」とはどういうことでしょうか? おそらく隣家の(もしかしたら両隣の)大邸宅との位置関係で、自分の家がそうした大邸宅に見下される位置に立っていたのではないでしょうか? 小さい家だったので大邸宅の景観をふさぐことなどありえなかったでしょうけど、逆に小さな自分の家の前方に大邸宅が立っていて自分の家の景観(や日照?)がふさがれるようなこともなかったようです……。要は、両隣を大邸宅に挟まれて肩身が狭いし、家そのものも第5回で「ぼろぼろ」だと言っていたので、壮大な見栄えのする邸宅のそばにあるとみすぼらしく見えたりしたのではないでしょうか? だけど、眺めが良かったことと、近隣の環境を含めた立地の良さが気に入っていたようです……。しかも格安の賃料……。
ところで millionaires ですが、両隣の大邸宅だけを指すようにも思えますが、実は次の⑥でお城のような白亜の豪邸が並ぶ景観が自分の家から見えると言っています。そうすると、どうもそうした豪邸が立ち並ぶ住宅街も含むのではないか?とも思えます……。高級住宅街のような立地だったのでしょうか?
⑤では自分の家と近隣を比較してどうかという話をしているようです……。「自分」は周囲の大邸宅と比べれば気が引けるようなものがありはしたけれど、自分の家そのものに不満を持ったりといったことはなさそうですし、眺めも立地も良いし、賃料にしてもありがたい金額だし、おおむね満足?のように聞こえます……。"足るを知る"みたいな印象も?……
⑥ Across the courtesy bay the white palaces of fashionable East Egg glittered along the water, and the history of the summer really begins on the evening I drove over there to have dinner with the Tom Buchanans.
「一応入江と呼ばれている海水域を挟んで対岸にはおしゃれでいけてる東島でお城のような白亜の豪邸がいくつも立ち並び、海岸線沿いにきらきらと光り輝いていた……そうしたきらきらと光り輝く白亜の豪邸が立ち並ぶ住宅街のことを頭に置いた上で言うのだけれど、自分が1922年の春に東海岸にやって来て数カ月後に迎えた夏の出来事は、実はあの晩に始まる……どんな晩かというと、自分が車を運転して出向いていった先がその白亜の豪邸が立ち並ぶ住宅街で、その訪れた先でトム・ブキャナン夫妻と夕食をともにした晩だ」
the courtesy bay は前回出てきたのと同じものを指します。対になった卵形の土地を隔てる海水域で便宜上入江と呼ばれているところでした。
the water は the courtesy bay を指します。
there は Across the courtesy bay the white palaces of fashionable East Egg glittered along the water という場所、つまり海岸線沿いにきらきらと光り輝く白亜の豪邸が立ち並ぶ住宅街を指します。
Tom Buchanan という夫の名前に The がついて、家族(複数の人)であることを表す"s"がついて、この場合は「夫(と)妻」を表します。
自分の家は西島にあると前回の最後や今回の①でみましたが、⑥ではその西島の側から対岸の東島に目を向けています。東島は西島とは対照的におしゃれでいけてると前回の最後にみました。その東島にはお城のような白亜の豪邸がいくつも立ち並ぶ地区があるようです。どうしてそういう地区の話をしたのか――それはまさしく東島のその地区で会う人たちをきっかけに、この物語の核心に近い出来事が始まるからのようです……。第3回で自分は"秋"に故郷に戻ってきたと言っていました。そしてこの⑥では自分が東海岸に来てまもなく迎えた夏に何やら事件?なのか、とにかく何か出来事があったようです……。その出来事は、その地区に住むある夫妻と夕食をともにした晩をきっかけに始まるようです……。やっと、物語が動き始めそうです……。
⑦ Daisy was my second cousin once removed, and I’d known Tom in college.
「(トム・ブキャナンの妻である)デイジーは自分の親のまたいとこか祖父母のいとこの子だった……つまりデイジーは自分の親戚だったという事実に加えて、自分は大学にいたときにトムを知っていた」
second cousin once removed は「またいとこの子」や「親のいとこの孫」も指すようですが、この場合は、自分の年齢がおそらく29歳?(1915年に大学を卒業しているので、卒業時に22歳としたら、1922年はその7年後なので29歳かと…)ということを考えると、またいとこの子や親のいとこの孫がどれほど若くても既婚の年齢に達しているとは考えにくいのでは……。
⑥の最後に「トム・ブキャナン夫妻」が登場していました。その直後に出てきた女性の名前らしいと推測できますので、普通に考えると Daisy はトム・ブキャナンの妻であると考えられます。自分は夫の方にも妻の方にもそれぞれ前から縁があったと言っているようです……。
⑧ And just after the war I spent two days with them in Chicago.
「夫妻のどちらとも前から縁があったことに加えて、第一次世界大戦の終戦直後に、この夫妻と一緒にシカゴで二日間を過ごした(ことがある)」
the war は第4回に出てきた the Great War を指していると考えられます。「自分」は大学を卒業した後、第一次世界大戦に従軍したと言っていましたから、戦争が終わり退役し故郷に戻るときに、シカゴに寄ってから故郷に帰った可能性が考えられます。中西部の出身だと言っていましたが、シカゴは今でも米国中西部の中心的大都市ではないかと思われますが、1922年頃もすでに現在同様シカゴがおそらく鉄道の中心地で、中西部のどの都市や町に行くにもシカゴ経由で行く以外になかったのではないかと……そうすると、もしシカゴに知り合いがいたら寄って行っても不思議ではないかもしれません……。
them は⑥に出てきた The Tom Buchanans を指しています。
何か大変な?(わざわざ物語にするくらいですから)出来事が起きたきっかけは、自分がある夫妻と夕食をともにしたことがきっかけだと言っていました……そんな大変な出来事が起こったきっかけになった人たちとはいったいどういう人なのか、自分とどんな関係や所縁があった人なのか……読んでいる人は当然そうしたことが気になるかもしれません……。だから、どんな接点があったのか、どの程度の付き合いだったのか、といったことを説明しているのかもしれません……。
おつかれさまでした。
やっと!お話が動き出しそうです……。まずギャッツビーの館が自分の家の隣りにあることがわかりました。しかも壮大なスケールのお屋敷のようです。次にいよいよこの物語の本題、"あの夏の出来事"とやらに絡む人たちが、ほんの少しだけですが出てきました。一緒に夕食をともにするくらいですから、いったいどんな仲なのか、読者に配慮した?情報が付け加えられていました。
さて今回の考えるヒントに上げていたお題 「7ページ第2段落末尾から4行目最後-3行目最初 it had been overlooked とはどういうことを表しているのか」 ですが……詳しくは⑤で説明したとおりです。
次回は、自分が夕食をともにしたというこの物語の核心に絡むらしい人たちがどんな人なのか、その説明が追加されます。
ということは……ここにきてまたもや、もう1回お話の展開が先延ばしになるかもしれない……ですけれど、重要な登場人物のようですので、ぜひまた一緒にみていってください。
第8回の範囲は、7ページ末尾から9行目から8ページ10行目まで(Her husband, among 〜からsome irrecoverable football game.まで)をみていきます。
次回の考えるヒントは……
- 8ページ7行目の but I didn’t believe it とはどういうことを言っているのか
セリフが出てくるのが待ちきれないですねえ。でももうしばらく、もしかしたら次回とその次あたりも?もう少し説明的描写が続くかもしれません……が、ぜひまた一緒に読んでみてください。
最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。
・どうして作者はその言葉を使用したのか
・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか
・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか
このコンテンツはこのサイトでのみ公開いたします。
このコンテンツの著作権はすべて著作者が保有いたします。
このコンテンツは閲覧以外の利用をすべて禁止いたします。
【お願い】
このコンテンツは無料で閲覧いただけますが、このページ末尾にある"お心付け"ボタンからぜひお心付けをいただけませんでしょうか。100円からお願いしております。ご検討いただけましたらありがたく存じます。
なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。