Gatsby-4
このサイトは、英語で書かれた物語を一作品、最初から最後まで少しずつ読んでみようという試みです。
取り上げる作品は『The Great Gatsby』です。100年近く前に米国で出版された小説ですが、現代の日本人にも共感したり心を動かされるところが多々あると思います。
ぜひ一緒に、英語の原書を読んでみませんか。
(なお、このコンテンツはその著作者の解釈に基づくものであり、必ずしも正しいとは限らないことをご承知おきください。)
前回は、どうやら「自分」は嫌悪感しか感じられないらしいギャッツビーの件がきっかけで、辛抱強くあろうと努力するのをやめ、他人の秘密など知りたくもないと思うようになり、そして世間の人みんながそろって倫理道徳規範をしっかり守ってほしいと思うようになったようだとみてきました。
野心家で成功のチャンスはすかさず逃さずものにするけれど、決して感受性が鋭いわけではなくむしろ鈍いくらいで空気読めない系?らしいくせに、うまいこと言って表向き体面だけはごまかして、平気で?危ない橋ばかりを渡り望むままに欲しいもの?を手に入れたらしいギャッツビー……いったい何をしたのか気になるところですが……
今回は「自分」の話が中心で、ギャッツビーは出てきません。ただ、「自分」がどういう人間なのかという説明を通じて、ギャッツビーはどういう人間なのかということが今後わかってくると思います。ですから、「自分」の話を通じてこの物語の時代背景なども知っていただけたらと思います。
原文はOne More Libraryの『The Great Gatsby』を使用します。
第4回の範囲は、5ページ第2段落から5ページ最後まで(My family have 〜からspring of twenty-two まで)をみていきます。
まず、今回の考えるヒントを上げます。
- 末尾から8行目と7行目に出てくる the bond business は何を表しているのか
なお、特に断っていなければ、基本的に次に上げる辞書の訳語や定義・意味に基づいて説明します。
主に使用する辞書
『リーダーズ英和中辞典(第2版)』(野村恵造)(研究社 2017)
『Pocket Oxford English Dictionary (Eleventh Edition)』(Maurice Waite) (Oxford University Press 2013)
『岩波国語辞典(第七版新版)』(西尾実 岩淵悦太郎 水谷静夫)(岩波書店 2017)
それでは今回の範囲をみていきましょう。
① My family have been prominent, well-to-do people in this Middle Western city for three generations.
「自分の一族はある町で名の知られた裕福な者ばかりだったのだけど、それは今自分のいる場所である(米国)中西部の町で、その期間は三世代にも渡っていた」
Middle Western は前回もみたように、「米国の」中西部を指します。おそらくミシガン湖よりも西の辺りを指しているのではないでしょうか? 前回、米国東部から戻ってきたと言っていました。
第2回で「自分」はどうやら恵まれた家庭で育っているらしいことをみましたが、ここで「町でも有名な裕福な一家」に生まれているらしいことがわかりました。「自分」が三世代目であれば、祖父母の代から今の町に根を下ろしているようです。
「自分」はお坊ちゃん?育ちでしょうか……
② The Carraways are something of a clan, and we have a tradition that we’re descended from the Dukes of Buccleuch, but the actual founder of my line was my grandfather’s brother, who came here in fifty-one, sent a substitute to the Civil War, and started the wholesale hardware business that my father carries on to-day.
(前半部分)「キャラウェイ一族はちょっとした一門といってよく、一家の家系に伝わる由緒があるのだけど、それはブックルック公爵の子孫であることで」
自分の家の名は Carraway というようです。The Carraways で一族や家族全体を指します。
something of は漠然とそれなりの存在感があることを示しています。
we は一族を指しています。
that は直前の a tradition の具体的な内容が続くことを示しています。
①で自分の一族は名の知られたものだと言っていました。そのさらに詳しい説明を追加しているようです。
(後半部分)「一応そういう公爵の子孫なのだけど、実際に自分につながる一族の始まりは自分の祖父の兄弟で、その人が今自分がいる町に来たのは1851年のことで、その人の身代わりになる誰かを南北戦争に送り、その人が始めたのは金物類を卸売する事業で、その事業を自分の父親が営んで現在に至る」
前半部分で「公爵の子孫」となんだかすごそうな肩書とか出てきたけど、自分の直系の先祖はそんな大げさなものではない、と but で打ち消しているようです。
who は直前の my grandfather’s brother を指して言いかえています。
fifty-one は四桁の年代の下二桁を表しています。Civil War は1861-65年にあったようですので、1851年と考えられます。(ちなみに日本は江戸時代幕末の頃です。)
that は直前の the wholesale hardware business を指しています。本来は後に出てくる carries on の後に来るはずのものが、前に引っ張られて出ています。
今の一族に至る始まりは自分の祖父の兄弟…大おじ…で、その大おじは1851年に今の町に来て、南北戦争には行かず、金物類の卸売りを始めて、その商売を自分の父親が受け継いで今に至る、と言っているようです。
③ I never saw this great-uncle, but I’m supposed to look like him — with special reference to the rather hard-boiled painting that hangs in father’s office.
「自分は(前文で説明した)大おじに会ったことはないけど、自分はその大おじに似ていると推測される――父親の書斎(の壁)にかけてある、相当程度ありのままを描いたらしい(大おじの)絵を見る限りでは」
自分が生まれる前にはきっと大おじは他界していたのでしょう。だから会ったこともないのにわかるはずないと思われるだろうけれど、その予想に反して、自分とその大おじが似ているようだと……なぜか……その根拠を"–“(ダッシュ)以降で説明しています。
that は直前の the rather hard-boiled painting を指して言いかえています。
今の一族の繁栄?の土台を作ったらしい大おじ……その人に自分は似ているようだ……ちょっと誇らしげ?でしょうか……。
④ I graduated from New Haven in 1915, just a quarter of a century after my father, and a little later I participated in that delayed Teutonic migration known as the Great War.
「自分がニューヘブンにあるイェール大学を卒業したのは1915年で、それはちょうど自分の父親(が同じ大学を卒業してから)四分の一世紀すなわち25年経ったときで、卒業後少しして加わったものがあるのだけど、それは例の今の時代にまで遅れて生じたゲルマン民族大移動で、第一次世界大戦という名称でよく知られた一大事だった」
New Haven という場所で、イェール大学を指すようです。
my father の後には graduated from New Haven が省略されているようです。
Teutonic migration というのは比喩的に使われているようです。大勢の兵士が米国から欧州大陸に移動した点や大戦後新しい西欧の秩序ができあがった点などが似ているようです。
自分はエリート?でしょうか……父親も同じようです……タイミング的にちょうど大学卒業時は第一次世界大戦で従軍したようです……。
⑤ I enjoyed the counter-raid so thoroughly that I came back restless.
「自分は(敵のドイツに対する)反撃を何から何まで楽しんだので、戦後今の町に戻っても(戦地にいたときのような)刺激を求めていた」
that は so を受けて、その結果どうなったのかを表すサインのようなものです。
戦地でも戦後故郷に戻っても意気揚々としていたようです……
⑥ Instead of being the warm centre of the world, the Middle West now seemed like the ragged edge of the universe — so I decided to go East and learn the bond business.
「(米国中西部は)世界の活発な活動の中心ではなく、米国中西部は宇宙の中でも手入れの行き届かない端っこにある部分のように戦地から戻ってきたときには思えた――だから米国東部に行って債券の仕事を学ぶことに決めた」
Instead of と being の間に the Middle West が省略されているようです。
East は the をつけなくても、前にthe Middle West が出てきているので何を指すかわかるだろうということで省略されているようです。
さて、今回の考えるヒントに上げた the bond business が出てきました。実はこの仕事がどのようなものなのかは、第6回の範囲に出てくる具体的な話からわかります。6ページ第6段落3-6行目あたりがヒントになります。「債券を扱う仕事」を指すと思われますが、その内容は第6回でみていきたいと思います。現代日本の証券業が近いのではないでしょうか?
故郷が退屈なところ…洗練された都会の真逆?…に思えたようです……ということは、米国東部は…現代日本の東京のようなイメージ?でしょうか……
⑦ Everybody I knew was in the bond business, so I supposed it could support one more single man.
「自分の知っている人はみな債券の仕事に従事していたので、その仕事がもう一人独身男性を食べさせてくれることができるのではないかと推測した」
I knew は直前の Everybody を説明しています。
it は the bond business を指しています。
きっと債券の仕事をしている人が大勢いたのでしょうね、だから自分もその仕事にありつけるのではないかと考えたようです……
⑧ All my aunts and uncles talked it over as if they were choosing a prep school for me, and finally said, “Why — ye — es," with very grave, hesitant faces.
「自分の(大勢いる)おじやおばがみなそろって、自分が米国東部に行って債券の仕事を学ぶことについて熟議を尽くしたのだけど、その有り様はさながら自分の(大勢いる)おじやおばがみなそろって、自分の行く大学進学(予備)校を選んでいるような具合だったのだけど、結局最後には『そうだなあ…まあ…いいか…』と歯切れは悪かったけど承認してくれたのだけど、そのときみなものすごく深刻な気がすすまないような表情をしていた」
it は⑥の最後に出ていた内容 to go East and learn the bond business を指しています。
they は All my aunts and uncles を指します。
prep school というのは現代日本でいえば「高校」に当たる(年齢の)ようです。大学に進学することを前提としたカリキュラムなのでしょう。「自分」は父親と同じイェール大学に行ってますから、きっと実際に prep school を選ぶときに同じようなことがあったのではないでしょうか?
大事な三代目の就職?ということで、一族がこぞってしゃしゃり出て?きたのでしょうか……債券の仕事ってのはこうらしいぞ、ああらしいぞ、大丈夫か…なんていろいろ口やかましく心配?してくれたのかもしれません……親心でしょうか……
⑨ Father agreed to finance me for a year, and after various delays I came East, permanently, I thought, in the spring of twenty-two.
「父親は一年間経済的援助をすることに同意してくれた、そしていろいろあって予定を何度も延期したけれど、米国東部にやってきた…期限を定めずに、つまり故郷に戻らないつもりでいた…それが1922年の春のことだった」
Father は「自分の父親」を指すのがわかっているときには My が省略されます。
permanently の前後がコンマで区切ってあるのは、米国東部に来たときはそういう気持ちでいたことを強調すると同時に、後に続く I thought でそう思っていたけど実際にはそうならなかった…だって、第3回の範囲でみたように、東部から戻ってきていますから……ことを伝えているようです。
1922年頃の米国は、好景気にわいていたようです。日本でいえば、ちょうど1980年代のバブル景気のようなイメージが近いのかもしれません。
第一次大戦後の米国の状況は、もしかしたら日本の高度経済成長期のようなイメージに近く、好景気にわいた後、1929年に大恐慌に陥ります。日本も高度経済成長期を経てバブル景気にわいた後、1989年にバブルが崩壊し経済が落ち込みます。なんだか似ていませんか?
「自分」は将来の仕事に債券を扱う仕事を選び、そのためにはまずその仕事をするために学ばなければならないこともあった…と同時に、もしかしたら米国東部で生活するには、少なくとも最初の一年間は経済的援助がないとやっていけなかったのかもしれません……そして紆余曲折を経てとにかく東部に来ることができた……出てきた当初はもう故郷に戻るつもりはなかった…なのに、実際には春にやってきて、そしてもしその次の秋には故郷に戻ったのなら、一年どころか半年ぐらいしか東部にいなかったのでしょうか……いったい何があったのでしょう?……よほどのことでしょうか?……それが前回みたギャッツビーがらみの件?でしょうか……
おつかれさまでした。今回は今までに比べたらずいぶん楽に読めたのではないでしょうか。
「自分」はきっと良家のご子息です。い〜っぱいいる一族のみんなにめちゃくちゃ可愛がられています。父親も自分もイェール大学卒……この大学は米国東部にあるようですので、戦後故郷に戻ったときには東部がどんなところかある程度知った上で、東部に行こう、そして債券の仕事をやろう、と思ったのかもしれません。同じ大学の卒業生とか、もしかしたら地元の同級生とかも、債券の仕事をしている人が大勢いたのかもしれません。流行り?に近かったのでしょうか……。どうしてかわかりませんが、一族のおじおばはこぞって、東部行きに反対だったようです…なぜでしょう? そして、「自分」は結局一年も経たずに?故郷に戻ったようです。さあ、そこには第3回でみた大嫌いなギャッツビーの件がからんでいるのではないでしょうか?
今回の考えるヒントのお題「末尾から8行目と7行目に出てくる the bond business は何を表しているのか」ですが……
⑥で説明したとおりです。ヒントに上げた箇所は第6回でみていきます。
次回もまだ「自分」の話が続きます。「自分」の仕事だったり生活だったりの有り様を知ることで、ギャッツビーの有り様がより際立ってきますので、ぜひいっしょに読んでみてください。
第5回の範囲は、6ページの最初から第5段落まで(The practical thing 〜から again with the summer.まで)をみていきます。
次回の考えるヒントは……
- 第三段落に出てくる West Egg village は何を表しているのか
次回も今回同様、今までに比べたらかなり読むのが楽だと思います。
米国東部に出てきていよいよ新生活です。その様子をみていきましょう。
最後に、物語を読むときに心にとめたいポイントをまとめます。
・どうして作者はその言葉を使用したのか
・それぞれの登場人物に作者はどんな役割を割り当てているのか
・それぞれの登場人物のセリフや物語の展開を通じて作者は何を言おうとしているのか
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なお、今回の範囲の訳文を有料(700円)で掲載いたします。この連載はだいたい250回くらいになる予定なので、毎回訳文を購読いただいた場合には30回で2万円を超え、トータルでは18万円近くになることをご承知おきください。またいかなる場合も返金には応じられません。また購読いただいた訳文にご満足いただけるとは限らないことをあらかじめご承知おきください。なお、問い合わせなどはご遠慮ください。お断りいたします。